横綱白鵬(35=宮城野)が、平幕の阿武咲(23=阿武松)に“おはこ”を封じられて今場所初黒星。初日から並べていた白星は「9」で止まった。

指定席ともいえる単独トップの座も、7日目からの2日間で終わり、1敗で平幕の碧山(33=春日野)に並ばれた。無観客開催の静寂な土俵で、このまま独走か…と思われていた優勝争いが、がぜん面白くなってきた。

立ち合いの張り差しと、かち上げは横綱審議委員会(横審)からも“注文”が飛ぶなど、何かと物議を醸してきた。特に、横からのひじ打ちとも思えるかち上げには、横審がたびたび、苦言を呈し協会側に指導を要請することもあった。その“おはこ”のかちあげが、この日はアダとなった形だ。横からでなく、この日は下から上へのほぼ“正当な”かち上げだったが、これを阿武咲は下からはね上げ応戦した。これで慌てた白鵬が押し合いの中で、たまらずはたいてしまった。阿武咲が保っていた、適度な距離も功を奏し押し出し。土俵を割った白鵬は、たまらず土俵下を駆け抜け、通常開催ならファンが座っている桟敷席まで助走するほどだった。

白鵬のかち上げが物議を醸した時、相撲経験のある親方衆は白鵬の非を責めるのでなく、その隙を突けずに負けた力士の、ふがいなさを嘆くことが多かった。かち上げはもろ刃の剣、相手にスキを与えるリスクをはらむ立ち合いの一手-。それが証明された一番に、協会トップの八角理事長(元横綱北勝海)は「白鵬に勝つには、こんな相撲を取ればいいというお手本」と阿武咲を褒めた上で「かち上げに(白鵬が)行っても(阿武咲が)こんな立ち合いをすれば全然、問題ない」と、かち上げをはね上げた阿武咲の対処法をほめ、その後の展開も「足を送れば白鵬は焦ってはたく。距離を空けて、しぶとく足を出していた」と評した。現役時代、かち上げへの対処法は熟知していたことを、同理事長はたびたび口にしていた。

土俵下で幕内後半戦の審判長を務めた審判部の藤島副部長(元大関武双山)も「かち上げに下がらず、下からおっつけていくと(白鵬の上体は)上がるんです。アレです」と、かち上げを攻略した阿武咲をほめた。さらに「今まではみな(白鵬に)やられ放題で気持ちで負けていた。白鵬からすれば一番、嫌な相撲を取られたのではないでしょうか」とこの日の阿武咲のように、ひるまずに立つことを期待した。