コロナ禍により大相撲夏場所が中止になり、本場所開催まで待ち遠しい日々が続きます。そんな中、日刊スポーツでは「大相撲夏場所プレイバック」と題し、初日予定だった24日から15日間、平成以降の夏場所の名勝負や歴史的出来事、話題などを各日ごとにお届けします。8日目は、験担ぎをした横綱の中日勝ち越しです。

<大相撲夏場所プレイバック>◇8日目◇89年5月14日◇東京・両国国技館

小さな「勝利の女神」に見守られた横綱大乃国が、ただ1人の全勝を守った。前頭筆頭の大寿山を下し、自身3度目の中日勝ち越し。西の支度部屋で「押し出しで勝つのはいい傾向だね。落ち着いて相撲が取れている証拠だ」と取り口を解説した。

1匹のハエが、初日から西の支度部屋の奥に紛れ込み、大乃国の周りを飛び回っていた。追い払わずに放っておいたら、板井、逆鉾、琴ケ梅といった苦手力士に連戦連勝。4日目には追い払おうとする報道陣に「守り神なんだから追い払っちゃいけないんだ」と言ってニヤリ。史上最重量210キロの横綱が、わずか1グラムにも満たないハエで験を担ぐのも妙な話だが、これも精神的に余裕があればこそ。この日もハエは、大乃国の明け荷の周りを元気いっぱい飛んでいた。

大関だった87年夏場所では、再十両の際に後援者からプレゼントされたトンボ模様の雪駄(せった)を15日間はき続けて全勝優勝するなど、験担ぎで結果を出した経験がある。今場所も、と臨んだが連勝は10でストップ。優勝こそ逃したが、12勝を挙げて横綱としての存在感は見せた。