両者の必死さが伝わってくる中身の濃い優勝決定戦でした。勝負ありと思われた土俵際で若隆景は、膝が崩れそうな体勢から左手で高安の左手を手繰り右は上手に届いた。この命綱を取れなければ吹っ飛ばされていたでしょう。

【大相撲】春場所・幕内の星取表

最近はすぐに引いたり、土俵際で力を抜く相撲を見ますが、最後まで勝負をあきらめなければ結果はついてくるという手本を若隆景が示しました。大関の足掛かりをつかんだと同時に、優勝というこれ以上ない自信もつけました。日本人の強い力士がやっと出てきたなと思います。あとは、まわしを取っての相撲を磨くことです。

高安は最後の詰めが惜しまれます。立ち合いは高安らしい、かち上げで優位に進めました。この立ち合いを、ただ頭を下げただけだった本割の阿炎戦で出せていたら…と悔やまれますが決定戦は若隆景をはじきました。激しい攻防の後、土俵際で左下手をうまく切られましたが、あれを引きつけていたら流れが変わったでしょう。

さらに若隆景が引いた時は致命傷になると思いました。ただ高安は前に出る足が半歩、足りなかった。足りずに肩で体当たりするように体を寄せました。あの場面は左の下手を取るなり差すなりしていれば逆転の投げを食わなかったでしょう。それが出来なかったのが半歩足りない足の運びでした。その失敗を若隆景は逃さなかった。今場所の好調さを象徴する土俵際でしたね。高安は緊張でガチガチでしたが、きっかけをつかめばこの先にも優勝のチャンスはあると思います。何事もあきらめないことが大切です。(元横綱若乃花 花田虎上・日刊スポーツ評論家)