大相撲の現役最年長関取の東前頭3枚目玉鷲(37=片男波)が2日、都内の片男波部屋で、ハツラツとした稽古で大相撲秋場所(11日初日、東京・両国国技館)に向けて汗を流した。

四股やすり足などで汗を流し、幕下力士と相撲を6番取った後が稽古の本番だった。目の前に序二段力士と序ノ口力士が同時に構える、2対1の稽古。正面に2人、正面1人と自身の右側に1人、正面1人と自身の後ろに1人の3パターンで行われた。休憩もなく一気に15番連続で行われ、鉄人・玉鷲の息も絶え絶え。師匠の片男波親方(元関脇玉春日)から「痛いこと、苦しいことに向き合わないと」と厳しいげきを飛ばされながらやり遂げた。

3月の春場所前ごろから行われてきた稽古だ。新型コロナ感染拡大により出稽古は自由に行けず、本場所に向けては部屋での稽古でしか鍛えられない。しかし部屋には現在、玉鷲の他は幕下1人、序二段1人、序ノ口1人しかおらず。通常の1対1の稽古では玉鷲の稽古にならないと考えた片男波親方が考案した稽古だ。

さまざまな方向から、しかも同時に向かってくる2人を相手にするのは、優勝経験のある玉鷲でも容易ではない。玉鷲は「なぁなぁでやるとケガをする」と緊張感を持って臨んでいる。

正面から2人同時にぶつかってきたり、最初から後ろを取られた状況で相撲を取ったりなど、さまざまなパターンで攻められる。最後まで一切力は抜かず、とにかく必死に動いて突破口を探る。土俵上では必至の形相も「体を相手の中心に合わせないといけない。あとは手だけでいったら駄目。最初はそれで肩をケガした」としっかり考えて相撲を取っている。2対1の稽古は本場所でのとっさの動きなどに役立っているという。「自分は天才じゃない。動きを体に覚えさせないと。考えるんじゃなくて体が動くようにしないといけない」と徹底した反復稽古で体に染み込ませている。

7月の名古屋場所は、部屋に新型コロナ感染者が出たことにより途中休場を余儀なくされた。新型コロナ関連での休場のため記録は途切れないが、04年初場所で初土俵を踏んで以来、これが自身初の休場だった。休場当初こそ「ゆっくり休んでいい休みになった」と思ったが、千秋楽には「取り残されている感じがして見られなかった」と予定していたテレビ観戦をやめるなどやるせなさがあった。

史上4位の通算1448回連続出場の記録が、休場当初は途切れたと思い「仕方が無いこと」とあまり気落ちはなかったという。しかし、周囲からの反響が自身の予想より大きく「自分の代わりに気にしてくれる人が大勢いてそれがうれしかったですね。自分よりもみんなが気にしてくれてありがたい」と徐々に感謝の思いが膨らんだという。秋場所では9日目まで出場すれば貴闘力の1456回を抜いて史上3位になる。「しっかりやらないといけない」と応援してくれるファンのためにも力を振り絞る。