幕内最小兵の勢いが止まらない。

西前頭5枚目の翠富士(26=伊勢ケ浜)が11年ぶりの珍手「割り出し」で小結翔猿を破り、初日からの連勝を2桁、10に乗せた。1差で追っていた小結大栄翔が敗れたことで、2差に開き、静岡県出身力士初の幕内優勝が現実味を帯びてきた。小結琴ノ若、東前頭6枚目の遠藤が勝ち越して2敗を守った。

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翠富士が巻き起こす春の嵐は、珍手まで呼び込んだ。小結翔猿を右四つがっぷりから、攻め抜いての快勝。決まり手「割り出し」は、12年九州場所で当時大関の稀勢の里が舛ノ山に決めて以来11年ぶり。「何年ぶりとか聞くと、うれしいですね」と無邪気に笑った。

171センチ、117キロの小柄な体で積み重ねた白星は10まで伸びた。「今後またできるか分からないんで、このままの勢いで勝っていきたい」。前夜、宿舎に戻って師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)に勝利を報告すると「お前、勘違いすんなよ」とピシャリ。翠富士は「エーッ!? てなりましたけど、笑いながらだったんで。喜んでくれていると思います」と言った。

残り5日間。追いかける2番手集団とは2差に開いた。静岡に初の賜杯をもたらす夢が日に日に現実へと近づいていくが、「(精神的には)意外と変わらずな感じなんです」。悩んでいた不眠症も「(前夜は)ぐっすり眠れました」と快勝。日本中が熱狂するWBCにも興味を示さず、ゲームの「ポケモン」で気分転換を図り、最終盤を迎えた。

11日目も小結の若元春との対戦が組まれた。「1日1日が長く感じる。早く終わらないかなと思うッス」。徐々に忍び寄る重圧にも小さな体で立ち向かう。【実藤健一】

◆割り出し 四つに組み片方の手で相手の腕をつかむかハズに当てがい、もう一方で上手か下手を取るか、小手に巻いて寄り切る。両力士の体が割れたようになるため、名付けられた。

▽幕内後半戦の佐渡ケ嶽審判長(元関脇琴ノ若) 翠富士は翔猿が左上手十分で攻めるところだったがよく動いた。勝っているから体が動くのかな。(琴ノ若は)しっかり下からあてがっていけた。本人にとって今がスタートと言っている。(遠藤は)一方的に攻められたが、本来の相撲勘が目立っている。

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