深作欣二監督、菅原文太主演の「仁義なき戦い」は09年に実施されたキネマ旬報のオールタイム・ベスト映画遺産200(日本映画編)で5位に選出されている。

 石油ショック、金大中事件、日航機ハイジャック…その年のざわめきを予感させるように73年1月に公開され、いろんな意味で画期的だった。

 それまでの「ヤクザ映画」は高倉健の主演作に代表される仁きょう映画で、ヤクザに姿を借りた時代劇の趣があった。殺陣には様式美があり、きょう客(かく)の主人公はあくまで正義の人だった。

 対して「仁義-」はリアルな暴力団抗争を描き、主人公は文字どおりのやくざ者だった。ギトギトあふれ出る男たちのエネルギーが魅力的で、この映画の大ヒットをきっかけに東映は「実録路線」にかじを切る。

 5月12日公開の「孤狼の血」の原作者、柚木裕子さんは、この「仁義-」を初めて見たときに「脳天をかち割られるほどのショックを受け、いつかこんな熱い小説を書きたい」との思いを抱いたという。

 メガホンの白石和彌監督はデビュー作「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(10年)以来、秀作を連発しているが、強いて言うなら実録モノ的作品に持ち味があると思う。一昨年の「日本で一番悪い奴ら」で、汚職警官を演じた綾野剛の突き抜けた演技、ダークヒーローぶりは忘れられない。

 原作者の熱い思いを、監督の揺るぎない技が受け止めたこの映画は、まさに現代版「仁義なき戦い」に仕上がっている。「アウトレイジ」シリーズの渇いたやりとりも悪くないが、もうちょっと脂っ気が欲しい。そんなツボにピタリとはまる。

 舞台は暴対法成立直前の広島。マル暴のベテラン刑事、大上(役所広司)は清濁併せのみながら、暴力団抗争の激化をなだめるように収めている。「警察じゃけぇ、何してもいいんじゃ」という姿勢は明らかに一線を越えており、新任で大上の下に付いた日岡(松坂桃李)は疑問を抱きながら大上の迫力に振り回される毎日だ。が、ダーティな顔の裏にある真意が透けて見えるようになり、日岡はしだいに大上にひかれていく。

 一方で抗争は激化し、暴力団と警察にまたがったどうしようもないドロドロがあぶり出されて…。

 汚れても汚れても温かい人間味がにじみ出る役所がはまっている。32歳下の松坂だが、受けの演技の巧みさに改めて感服する。

 周囲の俳優陣の迫力も、近年ではお目にかかれないものだ。日頃、抑制された演技が評価される演技巧者たちが気持ちいいほど振り切れている。格闘シーンは木片が画面から飛び出してくるようだし、血や汗が匂ってくるようだ。

 江口洋介と竹野内豊。ヤクザ役とは無縁と思われた二枚目たちが、ともに若頭役で弾けている。石橋蓮司、伊吹吾郎の本気のにらみ顔、真木よう子のたんか…。映像の緊張感とは別に、演じることを思いっきり楽しむ空気が伝わってくる。

 考えさせられたり、心におりが残ったり…。名作の「読後感」はさまざまだが、これほどすっきりしたのはいつ以来だろう。久々にカタルシスという言葉が頭に浮かんだ。

 付け足しのようになるが、マ・ドンソク主演の韓国映画「犯罪都市」も公開されている。こちらも破天荒な警官を描いた実録モノで、驚くほどテイストが似ている。見比べてみるのも一興だ。【相原斎】