西部開拓時代のジェシー・ジェイムズが伝説化されているように、欧米では「銀行強盗」に一種のロマンのようなものを感じる人が少なくないようだ。ジェイムズを主人公にした名作映画は少なくない。「ロング・ライダーズ」(80年)「アメリカン・アウトロー」(01年)…。70年代の名作ドラマ「大草原の小さな家」にも彼にまつわるエピソードが登場している。

象徴的な存在となった、そのジェイムズは35歳で射殺された。15日公開の「キング・オブ・シーブス」に登場するのは対照的に平均年齢63歳のシルバー強盗団だ。

6年前、英ロンドンの宝飾店街で現金や宝石類など1400万ポンド(約25億円)が盗まれる事件が起きた。英国史上「最高額で最高齢の金庫破り」がこの映画の題材だ。

「博士と彼女のセオリー」(14年)で知られるジェームズ・マーシュ監督は、金庫室の分厚いコンクリの壁に空いた穴の形までそっくりに再現した。老強盗団もマイケル・ケインを頭に巧者がそろっている。年老いても衰えない数々のテクニックに感心させられ、彼らがそれぞれに背負った人生の重みもにじませる。一方で、防犯カメラが張り巡らされた現代のハイテク捜査への対応は無頓着だ。

80年代には「完全犯罪」を成し遂げてきた「職人芸」が、凡庸な刑事たちのハイテクに破れる構図である。マーシュ監督は端々に時代に取り残された人々へのノスタルジアを重ねている。鼻持ちならない金持ちや権威にひと泡吹かせた往年の銀行強盗に、57歳のマーシュ監督もロマンを感じているに違いない。

かつてキング・オブ・シーブス(泥棒の王)と呼ばれたブライアン(ケイン)は、今や愛妻との平穏な日々に満足している。ところが、その妻が急逝。知人の若者バジル(チャーリー・コックス)から持ち掛けられた大掛かりな強盗計画に心を動かされる。ブライアンの始動にかつての仲間が集まるが…。

映画は大胆な計画を立てる前半で輝きを増していく老人たちを描き、実行日のアクシデントを境に彼らの暗部をあぶり出す。出遅れたロンドン警視庁だが、防犯カメラの解析によって捜査網はしだいに絞られる。80年代だったら彼らは間違いなく逃げおおせたのではないか、と思わせる。

ケイン以外にも「ハリー・ポッター」シリーズのジム・ブロードベント、「ドクトル・ジバゴ」のトム・コートネイら老強盗団には名優がずらり。ネットニュースに掲載された実際の強盗団と比べると、この個性派のベテランたちが外見をかなり寄せていて驚かされる。後半は息の詰まる展開だが、ラストシーンにホッとさせられる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)