米北東部の小さな漁港で暮らす4人家族。両親と兄はろうあ者で、1人だけ耳の聞こえる高校生のルビーは「通訳」として家業のトロール漁を支えている。

「コーダ あいのうた」(21日公開)は、音楽教師に歌の才能を見いだされ、音楽大学への推薦を受けたルビーの葛藤を軸に進行する。

底抜けに明るい家族だが、ルビーが大学のあるボストンに転居してしまうと健聴者が必要な家業がままならなくなる。彼女の才能がどれほどのものなのか。聞こえない3人には理解できない。家族か自分の将来か。ルビーは家族を選ぶことにしたのだが…。

合唱団の発表会で、周りの反応に娘の「歌声」を感じ始める3人、そして父が娘の才能に「触れた」方法とその瞬間…ローカル映画祭で高評価を重ねてきたシアン・へダー監督の、家族に寄り添うような演出に思わず涙腺が緩んだ。ジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」やタミー・テレルとマーヴィン・ゲイの「ユアー・オール・アイ・ニード」など、映画のテーマに真っすぐな選曲も心地よい。

ルビー役は「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズなどに子役として出演していたエミリア・ジョーンズで、意志の強さと純愛に揺れるほのかな思いをそれぞれ自然ににじませる。舞台デビュー10年の確かな歌声も披露。特訓で手話もものにしている。両親と兄は聴覚に障がいのある俳優が演じている。母は「愛は静けさの中に」(86年)のマリー・マトリン、父はTV出演の多いトロイ・コッツァー、兄は手話劇団出身のダニエル・デュラントと巧者ぞろいで、肩寄せ合う感じがよく出ている。

コーダ(CODA)は「耳の聞こえない両親に育てられた子ども」の頭文字の略称。音楽用語で楽章の新たな始まりの意味もあるそうだ。仏映画「エール!」(15年)を下敷きに、メリハリの効いた直球勝負の演出が気持ちいい。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)