世界に冠たる日本のアニメは、テレビ放送用だけで毎クール(四半期=3カ月間)50本以上が制作されているという。

その中のナンバーワン、覇権アニメを巡る戦いを描くのが「ハケンアニメ」(20日公開)だ。世代によって思い出の作品は違うと思うが、多くの人が最初に接するエンタメとなる毎週30分のアニメの裏側には、想像以上の人間ドラマがあるようだ。見応えのあるお仕事ムービーである。

大手アニメ会社で働く齋藤瞳(吉岡里帆)は公務員からの転職。生真面目でこだわりが人一倍強い。「サウンドバッグ 奏の石」で念願の監督デビューが決まるが、同じ時間帯でぶつかるのは、彼女がアニメ界を志すきっかけになった憧れの天才アニメ監督、王子千晴(中村倫也)による「運命戦士リデルライト」。いきなり最強の敵とぶつかるわけで、デビュー作にして断崖絶壁に立たされた状態である。

才能はあるがクセの強いスタッフに囲まれながら、瞳は必死に初心を貫く。体力、そして人間力が求められるアニメ監督という職業が垣間見えてくる。一方、王子は周囲を振り回しながらも、詰めの段階に至って天才の片りんをのぞかせ始める。

「水曜日が消えた」(20年)の吉野耕平監督は、分かりやすく、そして決して紋切り型にならずにアニメ制作の現場をテンポよく紹介していく。

辻村深月さんの原作は瞳と王子に加え、彼らをサポートしたり、引っ張ったりするプロデューサー役として、計算高いが頼りになる行城理(柄本佑)と、とにかく忍耐強い有科香屋子(尾野真千子)をそれぞれに配置し、この4人のキャラクターが分かりやすく立っている。

物語の振幅によってそれぞれのキャラにほころびが出るところが演技力の見せどころで、巧者ぞろいの4人がリアルな人物像が浮かび上がらせる。

辻村さんが劇中に創作した「サバク」と「リデル」は実際に1クールで見たくなるくらい魅力的で、それぞれに一線の監督とスタッフが「本物のアニメ」を作り上げている。だからこそ、後半を盛り上げる両作品の視聴率争いに引き込まれる。

人間ドラマにも、劇中アニメ作品にも…そこここにエネルギーがあふれ返っている作品だ。【相原斎】