第91回アカデミー賞のノミネーションが22日に発表され、今年の作品が出揃いました。日本からは、「万引き家族」(是枝裕和監督)が外国語作品賞に、「未来のミライ」(細田守監督)が長編アニメーションにそれぞれノミネートされましたが、最多10部門に名を連ねたのは「ROMA/ローマ」と「女王陛下のお気に入り」の2作品でした。また、日本でも大ヒットした英ロックバンド「クイーン」のボーカル、故フレディ・マーキュリーの半生を描いた「ボヘミアン・ラプソディ」は作品賞やラミ・マレックの主演男優賞など5部門に名を連ね、今年の賞レースで常に注目の的であったレディー・ガガの映画初主演作となった「アリー/スター誕生」は予想通り作品賞、主題歌賞、ガガの主演女優賞、ブラッドリー・クーパーの主演俳優賞など7部門で候補入りしましたが、クーパーは期待されていた監督賞のノミネートを逃すサプライズもありました。

そんな中、大きな話題となっているのが、マーベル・コミック初の黒人が主人公のスーパーヒーロー映画「ブラックパンサー」が作品賞を含む7部門にノミネートされる快挙を達成したことです。これまで権威あるアカデミー賞でアメコミ作品が作品賞にノミネートされたことは皆無で、同作は史上初めてオスカー候補入りしたアメコミ作品となりました。過去のアカデミー賞を振り返ってみても、批評家の評価が高かった「ダークナイト」(08年)ですら撮影賞や美術賞など7部門にノミネートされたものの作品賞の候補入りを果たすことはできず、それを機に作品賞の間口を広げることで一般映画ファンに人気の作品もノミネートの対象となるよう翌年から作品賞枠が5作品から10作品に拡大されることになりましたが、それ以降もアメコミ作品が作品賞の候補になることはありませんでした。2017年には女性監督がメガホンを取り、女性がヒーローの大ヒット作「ワンダーウーマン」が批評家やメディアから絶賛され、史上初の作品賞ノミネートが期待されましたが、候補入りすることはありませんでした。

「ブラックパンサー」は主要キャストのほとんどが黒人俳優というこれまでのハリウッド映画にはない画期的な作品として話題になり、昨年3月に全米公開されるや否や社会現象になるほどの大ヒット。アフリカ文化のルーツに対する尊敬や社会的メッセージもある作品として多くの映画ファンを魅了しただけでなく、批評家からも高い評価を受けていただけに、早い時期からオスカー候補入りが期待されていました。そのため昨年、アカデミー賞に「人気映画部門」を新設する案が浮上した際には、「ブラックパンサー」を作品賞から排除するのが目的ではないかと批判する声が多数出たほどでした。今作がノミネートされたことの意義は大きく、主演の俳優チャッドウィック・ボーズマンは、「我々は歴史的な偉業を成し遂げました」と喜びのコメントをしていますが、これを機にジャンルを問わず多くのファンに支持される作品がアカデミー賞にノミネートされる新時代がやって来るかもしれません。

そして、「ブラックパンサー」は27日に行われたアカデミー賞の行方を占う上で最も大切な賞の一つとされる第25回全米俳優組合(SAG)賞授賞式で最高賞に当たるキャスト賞をサプライズ受賞したことで、本命不在といわれる今年のオスカーでは何が起こるか分からなくなってきました。SAG賞受賞で勢いに乗る「ブラックパンサー」がオスカーを手にするのか、期待される授賞式は2月24日にハリウッドのドルビー・シアターで行われます。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)