第93回アカデミー賞のノミネーションが現地時間15日に発表され、Netflixの「Mank/マンク」が、作品賞、主演男優賞、監督賞など主要部門を含む最多10部門にノミネートされました。

ハリウッドのお膝元ロサンゼルスでは、コロナ禍でほぼ1年間に渡って閉鎖されていた映画館が奇しくもこの日から営業再開が認められ、映画ファンが歓喜に沸く中でのオスカー候補の発表となりました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年は新作映画の多くが公開延期を余儀なくされ、劇場公開を断念してストリーミング配信に切り替える作品も続出。それだけでなく、長期間にわたる映画館の閉鎖や撮影の中断など、パンデミックで激動の1年を経験した今年は、例年より2か月ほど遅れて、現地時間4月25日に授賞式が開催されます。波乱の中で迎える今年のオスカーには、どんな作品や俳優、監督が候補入りを果たしたのでしょう。

2016年には俳優部門にノミネートされた20人全員が白人だったことから「白すぎるオスカー」と批判されたこともあったアカデミー賞ですが、今年は史上最多となる俳優部門20人中9人を有色人種が占め、監督賞でも史上初めて女性2人が候補入りする快挙も達成。昨今問題視されてきた多様性を反映し、黒人やアジア人ら有色人種、そして女性の躍進も目立つ結果となった今年のノミネーションを紹介します。

最多ノミネートを果たした「Mank/マンク」は、脚本家のハーマン・J・マンキーウィッツ氏が1941年に公開された映画史に残る不朽の名作と呼ばれる「市民ケーン」を生み出すまでを描いた作品で、ゲイリー・オールドマンが主演男優賞、アマンダ・サイフレッドが助演女優賞、そしてデヴィッド・フィンチャー監督も候補入りしており、Netflix作品として初となる作品賞受賞に期待が持たれています。

続いて6部門にノミネートされたのは、ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門の作品賞を受賞した「ノマドランド」やアメリカに移住した韓国系の家族を描いた「ミナリ」、ベトナム戦争反対運動を発端に逮捕・起訴された7人の男性の衝撃の裁判を描いた実話「シカゴ7裁判」、アンソニー・ホプキンスが認知症の父親を演じる「ファーザー」など6作品。有力作6本が、6部門に並ぶ大混戦となっています。

ノマド(遊牧民)として季節労働の現場を渡り歩く女性の姿を描いて有力候補との呼び声が高い「ノマドランド」は、作品賞やフランシス・マクドーマンドの主演女優賞のほか、先日発表されたゴールデン・グローブ賞でアジア系の女性監督として史上初めて同賞を受賞したクロエ・ジャオ監督が、同じくアジア系女性初となるノミネートを果たしています。

また、昨年のアカデミー賞では、外国映画として史上初となる作品賞に加え、監督賞、国際映画賞(旧外国語映画賞)、脚本賞の4冠を達成した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」に続き、「ミナリ」も作品賞など主要部門を含む6部門にノミネートされています。昨年のポン・ジュノ監督に続いて韓国系のリー・アイザック・チョン監督が監督賞に名を連ねているだけでなく、注目すべきは「パラサイト」が果たせなかった役者部門でのノミネートを獲得したことです。史上最年少タイとなる8歳でのノミネートが期待されていた子役アラン・キムはノミネートを逃したものの、韓国系米国人のスティーブン・ユアンが主演男優賞、韓国のベテラン女優ユン・ヨジョンが助演女優賞で候補入りを果たし、アジア系へのヘイト(憎悪)犯罪が急増する中でのアジア人の躍進にも注目が集まっています。

一方、ノミネートが期待されていた「あの夜、マイアミで」や「マ・レイニーのブラックボトム」が作品賞候補から漏れ、監督デビュー作「ビール・ストリートの恋人たち」で黒人女性初となる監督賞ノミネートが期待された、オスカー女優レジーナ・キングも候補入りを逃したのはサプライズでしたが、昨年大腸がんのため43歳の若さで亡くなったチャドウィック・ボーズマンさんが、遺作となった「マ・レイニーのブラックボトム」で主演男優賞ノミネートを果たしたほか、「あの夜、マイアミで」からはレスリー・オドム・ジュニアが助演男優賞で候補入りしています。また、俳優部門は20人中8人が英国人で、「ファーザー」のホプキンスは史上最年長の83歳での主演男優賞ノミネートの快挙となりました。

2020年は劇場で映画を楽しむことが難しかった一方、多くの人が自宅でストリーミング配信を楽しんだ1年でした。そのため、ノミネートされた作品の多くがすでにオンラインで配信されており、今年はノミネート作品を授賞式の前にイッキ見できるというコロナ禍ならではのメリットもあります。日本でも配信で見られる作品が多いので、映画ファンにとってはより楽しみな授賞式になるのではないでしょうか。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)