人種差別や接待疑惑が浮上し、放映権を持つ米NBCテレビが今年5月に来年の授賞式の中継を取りやめることを発表するなど物議を醸したゴールデン・グローブ賞のノミネートが13日に発表されました。

スティーブン・スピルバーグ監督の「ウエスト・サイド・スト-リー」がドラマ部門の作品賞にノミネートされたほか、村上春樹さんの短編小説を原作にした濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が日本映画としては3年ぶりに非英語映画賞(旧外国語映画賞)に選出される快挙となりました。

ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)の会員による投票で選ばれるゴールデン・グローブ賞を巡っては、今年2月末に行われた授賞式を前に87人の会員の中に黒人会員が1人もいないことがロサンゼルス・タイムズ紙の記事で明らかになり、選考メンバーに人種的な偏りがあることが問題視されました。また、作品賞、主演女優賞にノミネートされたネットフリックスのドラマ「エミリー、パリに行く」を巡っても、仏パリにある撮影セットの取材に招待されたHFPAの会員約30人が、制作会社から1泊1400ドル以上する高級ホテルへの宿泊など手厚い接待を受けていた疑惑も浮上。賞の公平性が損なわれた可能性が指摘されていました。

さらに、在米韓国人のアイザック・チョン監督がメガホンを取った韓国人の移民家族を描いて作品賞、監督賞などアカデミー賞6部門にノミネートされた「ミナリ」が、台詞の半分以上が英語であるという作品賞の条件に適合しないことから主要部門の作品賞ではなく、外国語映画賞にノミネートされたことにも批判が殺到。その結果、NBCテレビは来年の授賞式の放映中止を発表したのに続き、動画配信サービス大手のネットフリックスやアマゾンも賞をボイコットすると声明を出す騒動となりました。

HFPAが主催するゴールデン・グローブ賞は来年で79回目を迎える歴史ある映画賞で、アカデミー賞の前哨戦などとも言われ、その年のオスカーを占う上で重要な役割も果たしています。一方で、約1万人の会員がいるとされるアカデミー賞と比較しても87人と圧倒的に少ない会員の資格を巡っても、一度選ばれると永久会員であるために実際にはほとんど執筆活動をしていない年老いたジャーナリストが多数いることなども以前から問題視されており、入会資格に不透明な部分が多いことも批判されています。

スカーレット・ヨハンソン(17年撮影)
スカーレット・ヨハンソン(17年撮影)

そんな中、一連のスキャンダルが引き金となり、スカーレット・ヨハンソンが過去にHFPAの記者からセクハラまがいの質問を受けたことがあると告白して「性差別的」と批判。俳優仲間らに距離を置くよう呼びかけ、トム・クルーズが「7月4日に生まれて」(1989年)などで過去に受賞した3つのゴールデン・グローブ賞のトロフィーをHFPAに返却する事態にまで発展しました。

大手スタジオや大物俳優らの相次ぐボイコットで存続の危機とも言われたゴールデン・グローブ賞ですが、HFPAは組織改革を行い、多様性を重要視した21人の新会員を受け入れたことを発表。来年も予定通りに1月9日に授賞式を実施することが決まりました。ゴールデン・グローブ賞は、ノミネートされた俳優や監督ら関係者がテーブルを囲んで食事をしながら授賞式が進行するスタイルで知られていますが、来年はどのようなスタイルで授賞式が行われることになるのかは明らかにされていません。ちなみに、ボイコットを表明しているネットフリックスは映画部門で最多となる17部門にノミネートされており、異例の授賞式となることは間違いなさそうです。

13日に発表されたノミネーションでは、トロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を受賞したケネス・ブラナー監督の「ベルファスト」と、ネットフリックスの「パワー・オブ・ザ・ドッグ」が最多7部門に名を連ねていますが、映画部門の主なノミネートは以下の通りです。

●作品賞(ドラマ)

「ベルファスト」

「ドリームプラン」

「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

「コーダ あいのうた」

「DUNE/デューン 砂の惑星」

●作品賞(コメディ/ミュージカル)

「ウエスト・サイド・ストーリー」

「ドント・ルック・アップ」

「tick,thck…BOOM! :チック、チック、ブーン!」

「リコリス・ピザ」

「シラノ」

●主演男優賞(ドラマ)

ウィル・スミス 「ドリームプラン」

デンゼル・ワシントン 「ザ・トラジディ・オブ・マクベス」

ハビエル・バルデム 「ビーイング・ザ・リカルドズ」

ベネディクト・カンバーバッチ 「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

マーシャラ・アリ 「スワン・ソング」

●主演男優賞(コメディ/ミュージカル)

レオナルド・ディカプリオ 「ドント・ルック・アップ」

アンソニー・ラモス 「インザ・ハイツ」

クーパー・ホフマン 「リコリス・ピザ」

アンドリュー・ガーフィールド 「tick,tick…BOOM! :チック、チック、ブーン!」

ピーター・ディンクレイジ 「シラノ」

●主演女優賞(ドラマ)

レディー・ガガ  「ハウス・オブ・グッチ」

ニコール・キッドマン 「ビーイング・ザ・リカルドズ」

オリヴィア・コールマン 「ロスト・ド-ター」

クリステン・スチュワート 「スペンサー」

ジェシカ・チャステイン 「タミー・フェイの瞳」

●主演女優賞(コメディ/ミュージカル)

ジェニファー・ローレンス 「ドント・ルック・アップ」

エマ・ストーン 「クルエラ」

マリオン・コティヤール 「アネット」

アラナ・ハイム 「リコリス・ピザ」

レイチェル・ゼグラー 「ウエスト・サイド・ストーリー」

●監督賞

スティーブン・スピルバーグ 「ウエスト・サイド・ストーリー」

ケネス・ブラナー 「ベルファスト」

ジェーン・カンピオン 「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 「DUNE/デューン 砂の惑星」

マギー・ギレンホール 「ロスト・ドーター」

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)