第94回アカデミー賞授賞式が現地時間27日にハリウッドのドルビー劇場で開催され、「ドライブ・マイ・カー」が日本映画としては「おくりびと」(08年)以来13年ぶり2度目となる国際長編映画賞(旧外国語映画賞)を受賞する快挙となりました。

残念ながらノミネートされていた作品賞、監督賞、脚色賞の受賞は逃しましたが、濱口竜介監督はスティーブン・スピルバーグ監督から「受賞にふさわしい素晴らしい作品だった」と声をかけられるなど、ハリウッドに「HAMAGUCHI」の名を知らしめた一夜となりました。

アカデミー賞 国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(ロイター)
アカデミー賞 国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(ロイター)

今年のアカデミー賞は、コロナ禍で規模を縮小してダウンタウンのユニオン駅に会場を移して行われた昨年から元の会場に戻り、4年ぶりに司会者も復活させて史上初めてとなる女性3人を起用。アップルTVプラスで配信されたオリジナル作品「コーダ あいのうた」が、動画配信作品として初となる作品賞に輝いただけでなく、トロイ・コッツァーが耳が不自由なろう者の俳優として初の助演男優賞を受賞し、脚色賞を含めてノミネートされていた全3部門を制するアカデミー賞の歴史に残る快挙となりました。

また、「ウエスト・サイド・ストーリー」でアニタ役を演じたアリアナ・デボーズが、アフロラティーノ(アフリカ系ラテンアメリカ人)として初めてアカデミー賞を受賞しただけでなく、クィアを公表した黒人女性としても初の快挙となり、多様性が反映された授賞式となりました。

一方で、「ドリームプラン」で主演男優賞に輝いたウィル・スミスが、妻で女優のジェイダ・ピンケット・スミスのスキンヘッドをジョークのネタにされたことに激怒してクリス・ロックに平手打ちを食らわせ、世界中の視聴者や映画ファンを騒然とさせる事件も起きました。

結果的にスミスのビンタが話題をかっさらってしまった感が否めない今年のアカデミー賞ですが、その陰で起きていた歴史に残る必見シーンを振り返ってみました。

■史上初3人の女性司会者が、ギャラの男女格差をネタに

司会を務めたエイミー・シューマー、レジーナ・ホール、ワンダ・サイクスが、授賞式の幕が開けて早々に「今年は、3人の女性を司会者に雇いました。男性1人を雇うより安いからです」とハリウッドにおける男女の賃金格差をネタに。ちなみに、2015年の授賞式では助演女優賞に輝いたパトリシア・アークエットが男女の賃金格差を訴えるスピーチをして拍手喝采を浴びています。また、3人は今月フロリダで可決された「ゲイと言ってはいけない法案」もネタにし、「フロリダ州の人たち、今夜はゲイナイトを開催します」と話して笑いを取る場面もありました。

■ユン・ユジョンが手話で助演男優賞を紹介

プレゼンターのユン・ユジョンとポーズをとるトロイ・コッツァー(ロイター)
プレゼンターのユン・ユジョンとポーズをとるトロイ・コッツァー(ロイター)

助演男優賞のプレゼンテーターとして登壇した「ミナリ」で昨年の助演女優賞を受賞したユン・ユジョンは、封筒を開けて受賞者の名前を読み上げる際に耳が聞こえないコッツァーに配慮し、手話で名前を読み上げてその優しさが話題に。手話でスピーチしている間も横でトロフィーを持ってじっとコッツアーの言葉に耳を傾けるように見つめる姿も反響を呼びました。両手を顔の横でひらひらとさせる手話の拍手でスタンディングオベーションとなり、会場全体が温かい空気に包まれたのも印象的です。

■ウクライナの人々に黙とう、ゼレンスキー大統領の出演はなし

映像での出演がうわさされたゼレンスキー大統領が、授賞式を通じて世界にメッセージを直接伝える機会はなかったものの、ロシアのウクライナ侵攻についてのメッセージを発信する場面も。

歌手リーバ・マッキンタイア(67)が、映画「フォー・グッド・デイズ」の主題歌「Somehow You Do」を披露後、スクリーンに「国内への侵攻、紛争、偏見に現在直面しているウクライナの人々への支援を示すため、黙とうしたいと思います」とメッセージが投影され、「国際社会としてももっとできることがあるはず」とウクライナ難民のための支援を訴える演出がありました。

また、プレゼンテーターとして登場したウクライナ出身のミラ・クニスも「想像を絶する闇の中で戦い続ける力を見出す人々に畏敬の念を抱かざるを得ません」とウクライナ問題についてスピーチ。

■「ゴッドファーザー」公開50周年記念でコッポラ監督がウクライナ支援

名作「ゴッドファーザー」の公開50周年を記念してフランシス・フォード・コッポラ監督が、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノを伴って登場。「ウクライナ万歳」と叫んでスピーチを締めくくりました。会場では他にもベネディクト・カンバーバッチやサミュエル・L・ジャクソンらがウクライナへの連帯感を示すため国旗カラーのバッチやブルーのリボンを身につけて参加する様子も見られました。

■主要部門ではないマイナーな賞を事前収録で批判

近年、視聴率低迷に拍車がかかるアカデミー賞は、苦肉の策として美術賞、音響賞、作曲賞、編集賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、短編アニメ賞、短編映画賞、短編ドキュメンタリー賞の8部門を授賞式の直前に収録。本番では編集した受賞スピーチの場面が映し出されたものの、テレビ中継ではまるでそれがライブであるかのような演出であったことから、本物と見分けがつかない「ディープフェイク」だとの批判の声も上がっています。

ちなみに、スピルバーグ監督をはじめ関係者はこれに反対の立場を表明しており、「タミー・フェイの瞳」で主演女優賞を受賞したジェシカ・チャステインも同作でメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた仲間を支援するため、レッドカーペットを歩けなくても発表の場に駆け付けると抗議の意を示していました。

■主演女優賞ノミネートのクリステン・スチュワートがショートパンツで登場

「スペンサー」でダイアナ元妃を演じて主演女優賞にノミネートされたクリステン・スチュワートは、「フォーマル」のドレスコードがある授賞式にシャネルのショートパンツ姿で登場し、レッドカーペットの話題をさらいました。

ブラックタイや豪華なドレス姿のセレブに混ざって、カスタムメイドの黒いサテンのジャケットとショートパンツに白いブラウスの胸元を大きく開け、黒のパンプスを合わせた独特のスタイルで婚約者と共にレッドカーペットに登場。オスカーで新たなスタイルを見せたと話題になりました。

■ビリー・アイリッシュがオスカー初受賞、ビヨンセはテニスコートからパフォーマンス

「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の主題歌「ノー・タイム・トゥ・ダイ」を手掛けたビリー・アイリッシュが、グッチの黒いドレスで登場して会場でオーケストラをバッグにパフォーマンスを披露。受賞結果が発表されると、喜びを爆発させる場面も。

また、「ドリームプラン」の主題歌「Be Alive」を担当したビヨンセは、作品のモデルなった女子テニス界最強の姉妹ビーナス&セレーナ・ウィリアムズが、スミス演じる父と練習に励んでいた生まれ故郷ロサンゼルス郊外コンプトンにあるテニスコートから生中継で登場し、オープニングを飾りました。歌曲賞は逃したものの大勢のバックダンサーの中に愛娘ブルー・アイビーちゃんがいたことも話題に。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)