プレゼンやスピーチなど、大勢の人の前で話すことが苦手だったり、どちらかというと嫌いなのに、部署異動で話す立場になってしまった、あるいは、役職について話さざるをえなくなったという方が、トークレッスンにはよくいらっしゃいます。人前とプライベートであまりに変わってしまう方にありがちなのが、“スイッチング”。トーク編第48回は「“スイッチング”のなくし方」です。

メトロde朝活での五戸美樹のトークレッスン講義風景(2019年8月)
メトロde朝活での五戸美樹のトークレッスン講義風景(2019年8月)

■別人にならないようにする■

人前で話すことの対策講座ではじめにお伝えするのが、「“別人”にならないようにするのがおすすめ」だということです。人前ではうまく話したい、丁寧に話したい、という願望や、人前ではキレイに話すべきだ、○○さんみたいに話すのが正解だ、という思い込みによって、まるで別人になってしまう方は少なくないです。


会話をしている時は「今日の雨はすごかったですね」と話す方が、いざ人前となると、「ホンジツわッ、タイヘンなアメにミマワレッ、ミナサマガタにオカレマシテわッ…」となってしまう…話している方にとっても聞いている方にとっても酷な時間です。


■人前モードのスイッチが入る■


対策としてはいろんなパターンがあり、張り詰めた緊張感がなくなって、自然な話し方になったり、「書き言葉」を「話し言葉」に書き換えて、普段の話し方に近づけられたりと、あらゆる方法がありますが、少し難しいのが、「人前」を意識すると、“人前モード”の“スイッチ”が入ってしまう方です。


例えば、会話をしている時は落ち着いた地声で話していらっしゃるのに、人前を意識すると、声がガラリと変わって、上ずった高い声になってしまう方。ご自身では自覚のないことが多いです。


また、朗読調になる方もこの“スイッチ”パターン。会話している時は自然な話し言葉でためらいなく話せるのに、人前を意識すると、急に窮屈になり、原稿がなくても、頭の中で文章を作らないと言葉が出て来ず、その文章は句読点まで含めた作文風の書き言葉で、まるで朗読しているようになってしまう方。決して少なくないです。

文化放送「走れ!歌謡曲」スタジオにて
文化放送「走れ!歌謡曲」スタジオにて

■スイッチングを緩やかにしよう■


この、人前を意識すると“人前モード”のスイッチがオンになることを、私は「スイッチング」と呼んでいます。スイッチを完全にオフにするのは時間がかかりますが、スイッチングしにくくなるようにすることはできます。スイッチングが緩やかになると、自然な話し方に近づけます。


■対策その1「録音」■


対策1つ目は、録音を聞く方法です。プライベートで何気なく話している時の自分の声と、人前を意識した時の自分の声を両方録音し、聞き比べます。どちらも聞くことで初めて自分の声に客観的になることができます。声が変わってしまうことを自覚し、何気なく話している時の声を、人前でも再現できるよう意識していきます。


■対策その2「繋げる」■


対策2つ目は、何気なく話している時から繋げる方法です。この方法はまず、人前で話す時のスタートの文言を考えます。「社内研修をはじめます」や「新商品をご紹介します」など。次に、プライベートの会話を想定します。「いや〜、そうなんですよ、何もないところで転んじゃいまして」など。


そして、プライベートの会話から、人前の文言まで、切らずに続けます。「いや〜、そうなんですよ、何もないところで転んじゃいまして新商品をご紹介します」。文脈は意味不明ですが、イメージ的には「シンショウヒンをッ、ゴショウカイしマスッ」となっていたのが、だいぶ自然になると思います。

J-WAVE「GROOVE LINE」スタジオにて
J-WAVE「GROOVE LINE」スタジオにて

■自分自身苦労しました■


何を隠そう、私自身がスイッチングによってうまくいかず、入社3〜4年目くらいまで悩んでおりました。私の場合はナレーションの仕事になると、力んでしまい、滑舌が悪くなり、声は硬くなるという悪いことばかり。そんな中、中継などフリートークで話す時は比較的うまくいっていたので、その時の声と繋げることにしました。「おはようございます!今日は千代田区有楽町に来ていますニッポン放送からのお知らせです」といった感じです。そしてそれを録音して聞くことを繰り返し練習していました。


時間はかかりましたが、徐々にスイッチングしなくなるようになり、そうするとナレーションの声を意図的に変えることもできるようになりました。苦手だったナレーションで指名をもらえた時はとても嬉しかったです。


ナレーションをなさらない方も、人前トークスイッチがあまり入らないようにするのは、とてもおすすめです。


【五戸美樹】(ニッカンスポーツ・コム芸能コラム「第72回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)