年末年始で、私的にうれしいニュースが2つあった。それは大ベテラン女優草笛光子さん(86)に関することだった。

1つは、元日に発表された「毎日芸術賞」に草笛さんが選ばれたことだ。同賞は今年で61回目を数え、文学、美術、音楽など各ジャンルから受賞者を選考しているが、演劇部門は草笛さんが受賞した。受賞理由となったのは、舞台「ドライビング・ミス・デイジー」の演技だった。

市村正親と共演した同作は、米国を舞台に、ユダヤ人で元教師のデイジー(草笛)と、黒人運転手(市村)との25年におよぶ交流を描いた作品で、草笛さんは2人の心が解きほぐされ、友情とも言える関係を紡ぎ出す過程を丁寧に、ちょっとした笑いを交えながら的確に演じていた。百戦錬磨の市村をして「この作品は、草笛さんがこの年齢で元気でいてくれるから成り立つんです。草笛さんがいなかったらできなかった。奥様、パーフェクト!」と言わしめた、名演だった。

もう1つは、草笛さんが今年の東京五輪の聖火ランナーとして故郷神奈川県を走ることが決まったことだ。3年前に、本紙が発行している「シニア新聞」でインタビューした時、「東京五輪で、聖火のトーチを持って走りたいの」という目標を聞いたけれど、実現性についは半信半疑だった。「走るためにトレーニングしているの」と前向きだったが、正直、86歳で聖火ランナーとして走る姿をイメージできなかった。

しかし、言葉通りに初志を貫徹して、聖火ランナーとして走る。当時のインタビューで「言いたいことは言うの。以前は、ちょっといい顔して、言いたいこともセーブしていたの。でも、たががはずれちゃって、良く見せようとかなくなっちゃった」とあっけらかんと話していたが、まさに有言実行だった。

80歳をすぎてから、紀伊国屋演劇賞、読売演劇大賞優秀賞を受賞している。紀伊国屋演劇賞は80歳の時で、三谷幸喜演出「ロストインヨンカーズ」で元気なおばあちゃんを演じた。読売演劇大賞優秀賞は84歳の時で、「新・6週間のダンスレッスン」でTOKIO松岡昌宏を相手にスイング、タンゴ、ワルツなどを鮮やかに踊って見せた。年齢を重ねながら、演劇賞を受けるほど演技を進化させきた。2月にはパルコ劇場のこけら落としシリーズで市村と朗読劇「ラヴレターズ」に出演する。草笛さんの舞台は必見です。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)