歌舞伎って、すごい。あらためて思った。歌舞伎座で上演中の「八月納涼歌舞伎」でコロナ感染者が出て、第一部から第三部までそれぞれ短期間の公演中止を経て、代役で再開した。

第一部の「新選組」では主演の深草丘十郎役の中村歌之助、親友の鎌切大作役の中村福之助が感染のため休演した。その窮地を救ったのは2人の従兄でもある中村勘九郎、七之助だった。

もともと原作となる手塚治虫氏の漫画「新選組」を小学生の時に読んだ勘九郎が「いつか歌舞伎にしたい」と思ったのが、今回の上演の発端だった。ただ、丘十郎を演じる年齢を越したという思いから勘九郎は新選組隊長の近藤勇を演じ、七之助も土方蔵三役で若い従弟を支えていた、しかし、歌之助、福之助兄弟の感染で、勘九郎に大作、七之助に丘十郎という代役が回ってきた。

19日に再開した舞台。思わぬ形であこがれの役に挑んだ勘九郎は大奮闘し、芹沢鴨役で出演した坂東弥十郎は「いや~凄い。代役の方々のクオリティー。特に勘九郎さん、七之助さんには頭が下がります」とブログで絶賛した。

また、市川染五郎、市川團子も感染していることが判明し、染五郎の父である松本幸四郎も濃厚接触者として休演した。そのため、第二部「安政奇聞佃夜嵐」の青木貞次郎役は市川猿之助が代役となる。第三部「弥次喜多流離譚」では弥次郎兵衛は市川青虎が代役するほか、染五郎と團子の役は市川猿弥、中村隼人らが代役して、20日から再開した。

猿之助は第二部では「浮世風呂」で踊り、第三部「弥次喜多」では喜多八を演じている。新たな役の台詞を覚える苦労に加え、第二部、第三部は出ずっぱりとなるため体力的にも大変だろう。7月は猿之助をはじめ多くの歌舞伎俳優が感染し、途中から公演中止となっただけに、今回は千秋楽まで公演をまっとうしたいという思いが強いのだろう。

そして、大役に抜てきされた青虎は今年3月に市川弘太郎から2代目青虎を襲名したばかり、幸四郎が戻ってくるまでにどんな演技を見せるのか。30代最後の年に大きなチャンスを得た。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)