三谷幸喜さん(61)が、自ら作・演出する舞台「ショウ・マスト・ゴー・オン」で2度目の代役をやり遂げました。25日に東京公演(世田谷パブリックシアター)初日を見てきましたが、本来はシルビア・グラブさんの演じる「あずさ」役で三谷さんが出演していました。この公演では「充」役の小林隆さんがけがのため、11月7日からの福岡公演、17日からの京都公演は三谷さんが代役をしていました。小林さんは東京公演から復帰しましたが、今度はシルビアさんが体調不良のため休演という緊急事態に、三谷さんの再登板となったわけです。

開演前に三谷さん自身の場内アナウンスで、シルビアさんの役を三谷さんが演じることが発表されると、客席からは拍手が起こりました。本番での代役ぶりについては、ネタばらしにもなるので詳細は書きませんが、ミュージカル出演も多いシルビアさんのために歌う場面もあるのですが、三谷さんも懸命に歌っていましたし、ちょっとセリフに詰まった場面では共演者がすかさずフォローするなど、見ていて違和感はありませんでした。

三谷さんは、自ら作・演出した新橋演舞場公演「江戸は燃えているか」(18年)でも代役を経験しています。勝海舟の娘役の松岡茉優さんが昼の部で体調を崩し、夜公演の出演は難しい状況となりました。夜の部は中止かという非常事態に、たまたま見に来ていた三谷さんが代役に名乗り出ました。開演前に観客に「納得いかなかったら帰っていいし、お金も払い戻します」と説明したところ、帰る人はいなかったそうです。本番では、自分が書いた台本とはいえ、せりふは入っておらず、しかも三谷さんがそのまま娘役をやるには無理があると、黒子姿で台本を手に演じ切りました。

今回はというと、ぶっつけ本番だった「江戸は燃えているか」と違い、多少の稽古時間もあり、三谷さんは台本を手にすることもなく、衣装もしっかりと着ていました。完璧な代役と言っていいでしょう。カーテンコールは4回、スタンディングオベーションとなり、この日から復帰した小林さん、2度目の代役をやり遂げた三谷さんをねぎらう拍手が多かったような気がしました。幸い、シルビアさんは26日の公演から復帰し、三谷さんの「あずさ」代役は1回だけで終わりました。

「ショウ・マスト・ゴー・オン」は、舞台裏で起こる数々のトラブルをかいくぐり、最後まで上演するために奮闘するスタッフと役者たちの姿が描かれるコメディーですが、1991年の東京サンシャインボイーズでの初演時には「幕をおろすな」という副題がついていました。今回の代役劇には、見に来た観客のために幕を開けるという、プロの演劇人の気概を感じました。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)