ひと昔前の落語家の聞き書きなどを読むと、しくじった時に師匠に殴られたという話がたびたび出てくる。そんなパワハラはもう昔の話と思いきや、元師匠から暴力を受けたと主張する元弟子が、元師匠に対して慰謝料を求める訴訟を東京地裁に起こしている。

二つ目落語家だった元三遊亭天歌(40)が、元師匠の4代目三遊亭圓歌(63)を訴えているもので、元天歌が今年10月に実名告発した記事がニュースサイト「FRIDAY DIGITAL」に掲載されて明らかになった。

当該記事などによると、2009年に入門した直後からパワハラを受けたという。「ミスをするたびに坊主頭を強制され、大声で怒鳴られた」。二つ目昇進後、元天歌が「ほかの師匠のもとに移りたい」と周囲に相談していることを知った圓歌に路上でビンタされ、今年2月には圓歌が10日間のトリをとった時、コロナ禍のため楽屋に行かなかったことから、呼びつけられて殴られたという。

元天歌は宮崎県出身で、明治学院大では落語研究会で活動した。卒業後、塾講師などを経て、27歳で圓歌(当時は歌之介)に入門した。13年も師匠と仰いだ圓歌との絶縁を決意したが、師匠から破門され、所属する落語協会に破門届を提出しないと、ほかの師匠に移籍できない。破門されない中途半端な状態が続いたが、10月に実名告発した直後に破門された。三遊亭天歌の名は返上したが、「落語家はやめません。ほかの師匠のもとで続けたい」と言う。一方、訴えられた圓歌は「違法なパワハラは存在しません」と否定しているという。

破門されても、ほかの師匠のもとに移籍して、活躍している落語家は何人もいる。また、三遊亭好楽(76)は、19歳で入門した最初の師匠の8代目林家正蔵(後の林家彦六)に酒のしくじりなどで23回も破門を言い渡されながら、その度に泣いて謝罪し許された。立川談志も師匠の5代目柳家小さんを怒らせるたびに破門と言われ、その数は80回を超えたが、正式に破門となったのは、真打昇進試験で弟子が落ちたことから落語協会を脱退した時だった。談志も何人もの弟子を破門にしている。高座で「うちの師匠は」とこぼすマクラは笑い話になるけれど、今回の訴訟にはどんなオチが待っているのだろうか。【林尚之】