2月下旬のある小劇場の舞台で起こった出来事が波紋を呼んでいる。出演した俳優が投稿したツイートによると、芝居が始まった直後に、高齢の演劇評論家が遅れてやってきた。大劇場ならチケットに表記された座席に案内されるが、小劇場では遅れてきた場合は、他の観客の邪魔にならないように入り口近くの空いている席に誘導されるケースが多い。その時も入り口近くの席に案内されたが、その演劇評論家は席が端っこのため気に入らなかったのか、芝居が進行中にもかかわらず大声で文句を言い、「いいよ、だったら帰るよ!」と捨てゼリフを残して出て行ったという。その声の大きさは「芝居を一度止めてやり直したほうがいいのではないかと思うレベル」だったようで、ツイートした俳優は「演劇文化を愛しているであろう評論家がそんなことをするなんて、一体どういうことだろう」「立派なハラスメント行為だと思う」とつづった。

1人の非常識な演劇評論家の言動だが、日々、招待されて舞台を見ている私にとって人ごととは言っていられない。演劇記者になって40年以上、招待されて舞台を見ることに慣れて、傲慢(ごうまん)になっていないだろうか。観劇する際、自分に課している最低限のルールがある。「開演時間に遅れない」「見ている時は寝ないこと」。開演時間に遅れて着席すると、ほかの観客の迷惑になる。まして、寝るということは、懸命に演技している俳優、スタッフに失礼だろう。

しかし、このルールを守ることのできない演劇評論家を見ることもしばしばである。決まったように開演5分後ぐらいに入場して着席する人、しっかり寝落ちしている人、カーテンコールでまったく拍手をしない人もいる。かつて、市川團十郎がブログで嘆いたことがある。「口開けて寝てる人もいるんです。悲しくなる。それでも記事を書くわけで。我々歌舞伎俳優は身を削って勤めていますよ。それを見てもないのに、書くなんて」

もちろん、開演10分前には席に座り、寝ることもなく、カーテンコールではしっかりと拍手する人がほとんどです。私を含めて。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)