「幸せ」だとか「幸福感」というのは単純ではないようで、2007年12月に、当時29歳にして株のネットトレードで総資産185億円に達していた“カリスマスーパートレーダー”、通称「ジェイコム男」こと「B・N・F」氏(米の伝説的投資家ビクター・ニーダーホッファーの名をもじったハンドルネーム)をインタビューした際(※2回目の直接インタビュー)、同氏が、自宅高層マンションの上層階から大都会の美しい夜景を無表情で眺めつつ「毎日がつらくてつらくて仕方がない。株をやっていてもつらいが、株をやめると相場が気になってもっとつらいから“流れ”で続けているだけ。将来の目標も、何もありません」とつぶやいた際、衝撃のあまり「んあ~」と口が半開きになったことを思い出す。

一方で、くしくも同じ07年12月、沖縄・西表島近くの無人島「外離(そとぱなり)島」で90年代前半から“全裸原始生活”を送っていた「最後の原始人」こと長崎真砂弓氏(当時72)を密着取材した際(※長崎氏も2回目の直接取材だった)、外離島の浜で朝とった魚やイカをさばき、空の雲の動きからその週の天気を予想したりしながら「今の僕以上に幸せな人は、日本を見回してもいないよ。僕以上に平和な状況にいる人もいないだろう。今の僕は完全な平和の中にいる」と“絶対的幸福”の境地に達したことを宣言したから、資産185億円(当時)の「ジェイコム男」氏29歳と、全裸無人島原始生活約15年(当時)の長崎真砂弓氏72歳という、ある種対照的な2人から、これまた対照的な“幸福観”を聞くことができた07年12月は、「幸福とは何なのか」と、さすがに能天気な筆者も深く考えさせられたことを思い出す。

沖縄の無人島・外離島で長年“原始生活”をおくっていた長崎真砂弓氏は07年、筆者に対し「今の僕以上に幸せな人間は、日本を見回してもいない」と全裸で喝破した
沖縄の無人島・外離島で長年“原始生活”をおくっていた長崎真砂弓氏は07年、筆者に対し「今の僕以上に幸せな人間は、日本を見回してもいない」と全裸で喝破した

そこでカルビーの「ポテトチップス しあわせ濃厚バタ~」である。12月10日の当日誌の「フィリピン菓子」ネタの際に少し触れたが、カルビーが12月3日から期間限定&コンビニ限定で発売している(※12月末ごろ終売予定)、この「しあわせ濃厚バタ~」を探し始めてから2週間弱、ようやく昨日、東京・立川市のコンビニで発見し、3袋一気買いしたのだ。

カルビーの「ポテトチップス」にはもともと「しあわせバタ~」味があり、誕生40周年を迎えた「コンソメパンチ」の抜群の安定感はもちろん文句のつけようがないほど凄いが、筆者は「しあわせバタ~」の、バター&はちみつ&パセリ&マスカルポーネチーズの風味が合わさったあまじょっぱい独特の風味を近年、日本のスナック菓子界で最強レベルだと勝手に思っている。

その「しあわせバタ~」のコクと風味をさらに期間限定で「濃く」パワーアップしたのが「しあわせ濃厚バタ~」。15年と16年にも同名の期間限定品が発売されたことがあり(※今回味や成分の配合などが多少変わっているかもしれないが)、とにかく、とんでもなく美味だった。

その記憶から今回も、「しあわせ濃厚バタ~」を12月末ごろの終売時期までに手に入れようと、本社近くを含め、都内のコンビニに入るたびに菓子コーナーを食い入るように見ていたのだが、人気だからなのか何なのか、全然見つからず、半ばあきらめかけていたから、見つけた時の興奮もひとしおだった。

探すこと2週間弱、ようやく見つけた期間限定の「しあわせ濃厚バター」。食べることで得られる「多幸感」が永久に続かないことも、十分分かっている
探すこと2週間弱、ようやく見つけた期間限定の「しあわせ濃厚バター」。食べることで得られる「多幸感」が永久に続かないことも、十分分かっている

商品名で注目なのはこの「しあわせ」という部分。食べると「しあわせな気分になる味」という意味と解釈できるが実際、大脳生理学的にはこの「しあわせバタ~」あるいは「しあわせ濃厚バタ~」を食べると、その“おいしすぎる味”の情報が脳に伝わり、「βエンドルフィン」「ドーパミン」など「多幸感」をもたらすとされ“ハッピーホルモン”などと呼ばれる複数の脳内伝達物質が分泌される現象が起きやすいと思われる。

問題は、一般的には「ポテトチップス」などのスナック菓子は「ヘルシーな食べもの」にカテゴライズされない点か。

栄養学的には「体にとって必ずしもヘルシーとは言えない食べもの」かもしれないが、一方で「食べれば脳内に“ハッピーホルモン”が噴出して多幸感を高確率で味わえ、それにより心身の調子が良くなる可能性が期待される」という側面もあり、その2要素をてんびんにかけ、うまくバランスをとることが「しあわせ濃厚バタ~」摂取のポイントかもしれないと考えている。

ちなみにカルビーといえば、伊藤忠商事やジョンソン・エンド・ジョンソン社長などを経て09年、会長兼CEOに就任した松本晃氏(※18年6月退任)が大胆な働き方改革を断行して増収増益を続け、売上高を倍増させ、営業利益率も大幅に高めたことで知られている。

松本氏はさまざまな改革を実行したが、不必要な業務を次々やめさせ、「ノーミーティング、ノーメモ」(会議不要、そのための書類資料不要)という強い方針から無駄な社内会議もどんどん減らし、残業も減らして長く会社にいる習慣をやめさせ、成果さえ出せば自宅勤務もOKで、余計な書類を置けないようにするため社内の席も一定時間ごとにランダムに決めるフリーアドレス化などを実践したとされる。

もちろん、社外からはうかがいしれない問題などもあった可能性はあるが、会議廃止や残業の排除などの改革により、自分への投資ができる時間が増えた社員個々の生産性が上がり、「多幸感」も増すことがあったという側面があったと推察できる。

あるいは社員の一部も、自社の商品である「しあわせ濃厚バタ~」など、顧客を「幸せにする」商品を開発して、達成感と同時に身をもって「多幸感」のスパイラルを生み出していたとも思われる。

話がややそれたが、筆者はとりあえず「3袋一気食い」はしないよう気をつけつつ、1日おきくらいに脳が疲れた時を見計らって「しあわせ濃厚バタ~」をたいらげ、刹那的な「多幸感」にひたりつつ、紀元前に「幸福」について詳細に定義、分析した古代ギリシャの哲学者アリストテレスの「ニコマコス倫理学」(岩波文庫)でも読み返そうかと思っている今日この頃である。【文化社会部・Hデスク】