主演作「ブラックパンサー」がアカデミー3冠となったのは一昨年、43歳の急逝は昨年8月だった。惜しまれて亡くなったチャドウィック・ボーズマンが残した主演作の1本である。

ニューヨーク・マンハッタン島で強盗事件が発生し、警察官8人が殺害される。ボーズマンふんする敏腕刑事は、この島に渡された21の橋を封鎖し、逃亡した犯人を追い詰める。が、裏には警察署ぐるみの組織的な関与があり、生真面目な刑事は孤立していく。

スラム街、倉庫、地下鉄…深夜の追跡劇は都会の暗部を立体的に映し出し、警察車両の赤いランプがアクセントとなる。昼間のシーンは対照的だ。俯瞰(ふかん)で捉えた警察官の葬儀では、全員の白手袋が野花のように映える。

真相への伏線もきめ細かく張られている。ドラマ中心に活動してきたブライアン・カーク監督の演出はメリハリが利いている。

ちょっと痩せて見えるボーズマンからはこの刑事の信念とかすかな揺らぎが伝わってくる。よく動くこの人の目は雄弁だ。そしてアクションの数々を息遣いもリアルにこなしている。

改めて惜しい人を亡くしたと思う。【相原斎】

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