岸井ゆきのの唇を、浜辺美波が奪う。そんな序盤のキスシーンから、岸井演じる湖谷真奈と浜辺演じる卯木すみれの関係性が、どこに向かっていくか、杉野遥亮演じる、すみれの恋人・遠野敦も交え、3人の人生が交錯していくさまを観客は見守り続けることになる。

小説を映画化し、成立させるために変更することは、ままある。中川龍太郎監督も作家・彩瀬まる氏の同名小説にはない要素として、すみれが持ち歩き、時に会話する際も回したビデオカメラを加えたという。すみれが真奈と遠野の前からいなくなり、残されたビデオカメラへの真奈と遠野の思い、考え方は違う。そうした明白に見える層の下に、どちらにも取れるような心の機微が幾重にも描かれる。そこに思いをはせ、自分なりの解釈をしている時間こそ、この作品の醍醐味(だいごみ)だろう。

一方で、同様に映画オリジナル要素として加えたという、真奈が東北に旅をするシーンは事前情報を一切、入れずに見ても必要性を感じなかった。あえて言わせてもらえば、ややエピソードが多めで、引き算してでも、すみれと真奈の関係性に、もう少しフォーカスして見せて欲しかった。2人の間に流れる空気は、ガラス細工のように繊細で、壊れそうで、危うくて、不思議で…何より、いとおしかった。【村上幸将】

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