子供を育てられない人が“赤ちゃんポスト”に預けた赤ん坊を連れ去り、子どもを願う家庭を探して売るブローカーの男2人と、赤ん坊を預けたものの、思い直した若い母親…。ある意味、加害者と被害者とも言える3人が成り行きで赤ん坊の養父母探しの旅に出る。最初は金目当てだったが、それぞれが赤ん坊のことを思い真剣になっていく。

是枝裕和監督は、13年の「そして父になる」で新生児の取り違え事件を描き、血縁と、ともに過ごした時間のどちらが家族をつなぐのかを観客に問いかけた。18年の「万引き家族」では血縁がなくとも、それを超えてつながっていく家族を描いた。同作で安藤サクラが演じた、子どもを産まないが母になろうとする女性と「ベイビー・ブローカー」でイ・ジウンが演じた、事情があり母になることを諦める女性を“姉妹”として描き、3作が「直線的につながる」と説明した。

13年頃から“赤ちゃんポスト”に関心を持った是枝監督は、日本より韓国の利用件数が多いと知り16年にプロット(あらすじ)を制作。脚本を執筆しながら韓国で取材する中で「生まれてきて良かったのか」と葛藤する子どもたちに向き合い「生まれてきて良かったんだよ」と伝える作品にしたいと考えたという。血縁、家族という形を超え、産み落とされた命の幸せを願う、ただ1点で結び付く人々を描いた今作で、また1つ、世界に大きな問いを投げかけたのではないか。【村上幸将】

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