長野・信州の人里離れた山荘。米をとぎ、まきをくべ、ご飯を炊く。炊き上がったばかりの白米はつやつやだ。掘り起こしたばかりの小芋の土を指先で丁寧に水洗いし、皮をむき、包丁で切る。いろりであぶった小芋はホクホクだ。「おいしそう…」と何度もつぶやいてしまう作品に出合った。

直木賞作家、故水上勉さんによる料理エッセーが原案。老境の人気作家ツトム(沢田研二)は、山荘で13年前に亡くした妻の遺骨とともに独りで暮らす。少年時代に京都の禅寺へ修行に出されて覚えた精進料理を思い出し、家の前の畑で育てた野菜や、山々で採った山菜を自ら料理して味わう。時折、東京から編集者で年の離れた恋人の真知子(松たか子)が訪れる。

暦に沿う暮らし。旬の食材から四季折々の自然を感じ、2人で過ごすゆったりとした時間は、なんともぜいたくだ。沢田の枯れそうで枯れていない自然な演技が、里山の風景となじんでいる。

古民家を改装し、スタッフが畑を耕し、野菜を育てることから始めた撮影には1年半もかけた。生きることは食べること-。ほろっと崩れそうな「ミョウガのおにぎり」がおいしそう。【松浦隆司】(このコラムの更新は毎週日曜日です)