なぜか、うまくいかない。いつも何かに対し、漠然といら立ち、周囲の人々と衝突を繰り返す。8年間の長期連載をかきあげ、売れ行きに陰りが見え始めた漫画家の葛藤、表現者の苦悩を描く。

人気漫画家浅野いにおが、自身の経験をベースにした同名作品の実写映画化。俳優竹中直人の「無能の人」(91年)から通算10作目の監督作品だ。SNSではオワコン扱いされ、自堕落で鬱屈(うっくつ)した毎日を過ごす漫画家・深澤薫役を斎藤工が演じた。

わずかな目の動きや沈黙、映像でしかできない表現方法をうまく使っている。深澤の顔をあえてフレームから切って、はっきりと見せないシーンもあり、落ちていく主人公の苦しい息づかいが聞こえてきそうだった。何よりも、どんどん虚無になっていく斎藤の好演が妙に色っぽい。

深澤は、ある日“猫のような目をした”風俗嬢・ちふゆ(趣里)と出会い、堕落への一途をたどるが…。ハッピーエンドでもなければ、バッドエンドでもない。見終わった後、なんとも言えないモヤモヤ感が残ったが、人生でスランプを経験したことがある人には刺さる作品だ。【松浦隆司】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)