人気絶頂だった20代半ば、エルヴィス・プレスリーは当時の徴兵制度でドイツの米軍基地に2年間勤務している。この時に一目ぼれしたのが上官の娘で14歳のプリシラ。後の妻である。

大スターの恋人となり、めくるめく体験をした少女は、年月を経てその愛を束縛と感じるようになる。

著名監督の娘として少女時代から大人たちに囲まれて育ったソフィア・コッポラ監督は、自らの屈折した思いを重ねるように、プリシラのきらめく思いと自立するまでの心の動きをきめ細かく描く。

実は映画俳優として認められたかったエルヴィスは「アイドル映画」にうんざりしており、対極のマーロン・ブランドへの憧れをこっそりプリシラに打ち明けたり、「まだその時ではない」と結婚式まで抱こうとしない潔癖ぶりまで、彼女の回想録から紡ぎ出された逸話は興味深い。

独特のアイメークを決める手指の動きも繊細に、若手のケイリー・スピーニーがぴたりとヒロイン像に寄せている。大人の女性への成長ぶりも自然に見える。

古き良き時代のアメリカがていねいに作り込まれていて、数多くのファッションアイテムや「シャネル5番」の印象的な使い方はソフィア監督ならではだ。【相原斎】

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