ABCテレビの報道情報番組「キャスト」(月~金曜、午後4時54分、関西ローカル)のMCの上田剛彦アナウンサー(44)が先月28日の放送中に涙を見せました。涙にはワケがありました。

肝不全で亡くなったコラムニスト勝谷誠彦さん(享年57)の訃報を伝えていたときでした。上田アナの目から涙があふれ出ました。

先日、上田アナを取材する機会がありました。上田アナと勝谷さんは同局の夕方の報道情報番組「ムーブ!」(04~09年)で約4年間、共演していました。2人で食レポをする機会も多く、プライベートでもよく食事に出かけたそうです。

「本当にいろんなことを教わりました。勝谷さんに『上田君、ニュースの伝え方、こうだったね。あそこはこうしたほうがいいよ。あそこはよかったよ』と言ってもらうことがもうないんだと思うと、ほんと、悲しくなった」

上田アナが最も印象に残っているのは自身の結婚式での勝谷さんの来賓スピーチ。結婚の数年前に母を亡くしていました。

マイクを握った勝谷さんの第一声は「僕にはね、上田君のおかあさんが見えるんです」。毒舌で知られる勝谷さんが、いきなりスピリチュアルなことを言ったため、会場はドッと沸きました。

ところが、勝谷さんは真顔でもう1度、上田アナに向かって「僕にはね、上田君のおかあさんが見えるんです」。会場は「?」で静まったそうです。

「上田君とは何度も食べ物のロケに行った。お酒の味、食べ物の味、上田君はそれが分かる舌を持っているんです。料理人がどのように苦労してこの料理を作ったか。この料理には温かい気持ちがあるのか、やさしい気持ちがあるのとか。上田君にはそれを伝えることができる舌があるんです。子どものころから上田君のおかあさんが、どういう料理を作ってきたかが分かるんです。だから上田君を見ていると、おかあさんが分かる。おかあさんが見えるんです」

勝谷さんの豊かな感性と表現。会場のだれもがうなるスピーチでした。勝谷さんは日本酒が大好きでした。「日本酒を飲む度に、勝谷さんは言っていた。『自分の舌を信じなさい』。いまでも食べ物を食べるたびに思い出します」。

毒舌、舌鋒(ぜっぽう)が鋭い-。勝谷さんの代名詞です。

「実は人のことを守るときにより厳しい言い方をしていた。あの人の言葉で傷ついたという人はほとんどいないはず。傷つける言葉ではなかった。守るための言葉だった。だからこそ、そういう言葉を生み出そうとすると、きっと自分との闘いがあったんだろうなと思う」

「あまりにもやさしくて、繊細すぎるので、結局だれにも言えずに、ちょっとお酒でも飲むかってなったんだろうな。僕にはニコニコしながら『上田君、こうだよね』って。笑顔の勝谷さんしか思い出せない」

「キャスト」は10月からセットがリニューアルされました。国内の夕方のニュース番組では初めてとなる円卓のセットを取り入れました。セットの中心に円卓が置かれ、MCの上田剛彦アナウンサー(44)を囲むように出演者全員が座り、本音トークを繰り広げています。

4月から同番組MCを務める上田アナは「番組の誇れるコメンテーターのみなさんは知識もあり経験もある。これを生かすためにはどうしたらいいか。円卓にして自由に議論を交わせるようにしようというのがコンセプトの1つです」。

自由でおおらかな雰囲気に上田アナは「コメントを言うとき『勝谷さんだったらどう言うかな』と考えるときがある」。

上田アナには円卓にいる「勝谷さん」が見えます。

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)