教科書でいま何が起きているのか? 教育と政治の関係を見つめながら最新の教育事情を記録したドキュメンタリー映画「教育と愛国」が5月13日から全国で順次公開されます。毎日放送(MBS、大阪市)で記者、ディレクターとして20年以上、教育現場を取材してきた斉加尚代監督(57)に作品に込めた思いを聞きました。

安倍政権下で進められた「教育改革」。現場の教員、歴史の記述をきっかけに倒産に追い込まれた大手教科書出版社の元編集者、歴史学者らへのインタビュー映像とともに、政治と教育の点と線がつながっていく。教科書はどのように制作、検定されるのか。現場でのせめぎ合いを伝えています。語りは俳優井浦新が担当します。

「第55回ギャラクシー賞」でテレビ部門の大賞を受賞したMBSが制作したドキュメンタリー作品「映像’17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか」(17年7月放送)に、追加取材を重ね、完成させました。

偶然でしたが、映画公開が発表された2月24日は、ロシアのウクライナ軍事侵攻開始と重なりました。「想像を絶する衝撃でした」と振り返る斉加監督はこう指摘します。

「ロシアのプーチン大統領が『特別軍事作戦』と言い続け、決して『戦争』だとは認めない。でも、言葉の置き換えは、日本の教科書の中で起きている」

昨年4月の閣議決定で朝鮮半島からの「強制連行」を「動員」「徴用」、「従軍慰安婦」を「慰安婦」とするのが適切とする政府見解が示されました。

「政府が不適切と決めて書き換え、置き換えしていく。(ロシアの状況と)どこか違うのだろうか? 閣議決定1つで政府見解が教科書の中にどんどん入っていくことができる時代を迎えてしまった」

ドキュメンタリーを制作するきっかけとなったのは、斉加監督の「なんで?」でした。道徳教科書の「パン屋さん」の記述が、検定意見を受けて和菓子を扱う店に修正されました。「なんでパン屋さんが和菓子屋さんになるんやろ?」。そこから事実を丹念に掘り起こし、取材を重ねると、1本の線が見えてきました。

斉加監督とタッグを組んだ澤田隆三プロデューサー(60)は「ある人が試写の後、『怖い映画やな』と。さまざまな右派、保守勢力が多発的に教科書や学校に圧力をかけてくる現実。その背後に見え隠れする政権中枢の存在…。もしこの映画が『政治ホラー』としてみられるならば、制作者が意図した以上のみられ方であり、いよいよ次ぎは『本格的な政治ホラー映画を目指そう』という強い動機につながるのではないかと思っています」と話します。

「映画をきっかけに教育、教科書のことを語ってくださる人が1人でも増えていただければ…」と斉加監督。

「教育」と「愛国」。ヒタヒタと忍び寄る「怖さ」を感じるドキュメンタリー映画が完成しました。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)