卓球元女子日本代表の福原愛(31)が、活躍の場を広げている。「天才卓球少女・愛ちゃん」と幼少期から親しまれ、卓球女子ではオリンピック(五輪)4大会連続出場。昨年10月現役引退し、現在子育てに奮闘中だ。来年上演されるブロードウェーミュージカル「ドリームガールズ」(東急シアターオーブ)ではオフィシャルサポーターに就任。3歳9カ月から始まった卓球人生、今、そして今後の夢を聞いた。

★悔しさと怒りの涙

子どものころは「泣き虫愛ちゃん」、大人になってからも「卓球の愛ちゃん」の愛称でお茶の間の人気者として愛されている。

93年、5歳の時にフジテレビ系「明石家さんまのスポーツするぞ!大放送」に出演し、明石家さんま(64)と対戦中に泣いたことがきっかけで多くのテレビ番組に出演し、国民的な人気者になった。

「さんまさんに高いサーブを出されて、届かなくて点をとられて泣いていたじゃないですか。あれは、さんまさんに怒っていたのでなくて、そのチャンスボールになんで届かないんだっていう涙だったんです。負けることよりも、持っている技が出せなかったりする自分自身に対する悔しさとか怒りの涙だったんです」

しかし、その後、決して悔し涙は見せなかった。

「人前で泣いてないだけです。ミックスゾーン(試合会場の取材場所)に入る前に泣いてました。私、目があまり腫れないのです。泣いているところは誰にも見せたくなくて。実は、リオ五輪の時もシングルスを負けた時は、死角になるところで泣いてました。最後、団体戦でメダルをとった時に気持ちが解放されて泣いちゃいましたけど(笑い)」

初めてラケットを握ったのは、3歳9カ月の時だった。兄の影響で卓球を始めた。

「最初の頃は、平日は夕方6時から夜10時までの4時間。休みの日は朝の8時半から夜の9時くらいまでひたすら練習してました。4歳とか5歳だと、ほとんど対戦する選手は年上で。年上の選手に勝って周りの大人を驚かすのが好きでした」

96年、アトランタ五輪をテレビ番組の企画で現地観戦したことで、五輪出場の夢が膨らんだ。

「小学校2年生になる年だったのですけど、それまでは正直なところ、五輪が全くイメージできなくて、『一番大きな大会』くらいにしか思ってませんでした。でも、会場に行ったことで具体的にイメージできるようになって目標になったんです。そのイメージをずっと持っていて、(12年)ロンドン五輪の会場がアトランタとすごく似ていて、そのイメージがあったので緊張しなかった。後々になって、イメージトレーニングだったんだなと思いました」

★主役からサポート役

東京五輪を目前に18年10月、現役を引退した。引退を延ばして出場を目指す選択肢もあったが、未練はないという。

「すごく魅力的だったけど、私には東京五輪までにもっとやることがあるんじゃないかなと思いました。選手としての私ができることは、全てやり終えたと実感があったので。コートの外からサポートしたり、できることがあるんじゃないかって。東京五輪が終わった時、『もっと卓球が盛り上がるために何ができるか』というところを考え、選手として出場することよりも価値があることなんじゃないかなと思いました」

卓球プロリーグ「Tリーグ」の理事を務めているのも、卓球界を盛り上げたいという思いがあるからだという。

「子どもが生まれて、より一層、次の世代のことを考えるようになりました。子どもたちが何か夢をかなえたいと思った時に、具体的に『こうしたら良いんだよ』っていう夢をかなえられる環境づくりとか、サポートをしたいって。多分、人生の中で主役になる時間は終わったと思うので、これからは自分が表に出るよりも、支えてくれた皆さんに恩返しをしたいと思っています」

★地元開催追い風に

現在は、生活の拠点を16年に結婚した江宏傑(30)の出身地の台湾においている。長女のあいらちゃん(2)と長男のじゃんくん(0)の子育てに奮闘中だ。子どもの話になると、顔をほころばせる。

「(あいらちゃんは)言葉が分かるようになって、誰に似たのか、すごく頑固でおてんばです(笑い)。卓球は素振りをやっていますね。鏡の前にいって『卓球、卓球』と言ってます。私が卓球をやっていたのも知らないし、パパが卓球選手だとも知らない。自分が一番強いと思ってると思います(笑い)」

両親ともに卓球選手。将来期待される。

「卓球をやってもらいたい気持ちは、全くないです。したいとなったら全力で応援はしますが、私が手取り足取りというのは絶対ないですね。やるんだったら生半可な気持ちでやってほしくないので。私から中途半端にすすめることはないですね。寝かしつけながら『将来、何をするんだろうな』って思ってます」

来年、上演されるブロードウェーミュージカル「ドリームガールズ」のオフィシャルサポーターに就任した。もともと、音楽好きで試合前には験担ぎもしていたという。

「洋楽も邦楽も、中国語の曲も聴きます。昔は試合前に、安室奈美恵さんの『Get Myself Back』という曲を毎回、聴いていました。歌詞に『大丈夫 きっと全てはうまくいく』という部分があって、それを聴かないと気持ちが入れなくて、入場ギリギリまで、その部分を聴くために早送りしたりして聴いてました。大ファンです」

自身も夢をかなえてきた。作品に共感する部分も多いという。

「(『ドリームガールズ』の)映画版を見たのですが、女性の夢をかなえる過程を見ることができてハッピーな気分になれました。(オフィシャルサポーターが)私で良いのかな思いましたが、しっかりと魅力を伝えたいと思います」

最後に東京五輪、卓球日本代表の展望を聞いた。

「私がいた時よりも、数段強くなっていて、今までは最低でも決勝に行くことが目標で、そこからはチャレンジという感じだったけど、対等で戦える位置までこれていると思います。五輪となると中国選手は緊張すると思いますし、日本代表にとっては地元開催で追い風になると思います。プレッシャーもあると思いますが、応援がプラスに働いてくれたらチャンスはあるんじゃないかなと思ってます。会場に応援に行きたいですね」。【上岡豊】

◆福原愛(ふくはら・あい)

1988年(昭63)11月1日、仙台市生まれ。3歳9カ月から卓球の英才教育を受け、5歳10カ月で全日本選手権バンビ(小2以下)で史上最年少V。04年アテネ五輪で五輪に初出場し、シングルス16強、08年北京五輪シングルス16強、団体4位。12年ロンドン五輪シングルス8強、団体銀メダル。16年リオ五輪シングルス4強、団体銅メダル。同年9月、リオ五輪台湾代表の江宏傑と結婚。17年10月長女あいらちゃんを出産、19年4月長男じゃんくんを出産。155センチ。

◆ブロードウェーミュージカル「ドリームガールズ」

20年1月29日~2月16日、東京・東急シアターオーブで上演。若い女性によるR&Bグループ、ザ・ドリームズが栄光、挫折、友情などを経験しスーパースターへと成長していくサクセスストーリー。

(2019年12月1日本紙掲載)