ラジオやテレビで素朴な疑問を口にし、飾らない言葉が共感を呼ぶ。作家室井佑月さん(50)はこの4月、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ!」(月~金曜午後1時)の金曜パートナーを務めて丸10年を迎えた。迷わず、恐れず、ためらわず。言葉を紡ぐ作家、コメンテーターとして一線で走り続ける女性の目はキラキラとしていた。

★炎上「いい時も」

作家業の傍ら、コメンテーターとしての顔がすっかりおなじみになった。

「コメンテーターをやる時って、世間一般の気持ちの『みこ』みたいなものじゃないといけないの。一部の、名前を持った権力のある人の意見を言うんじゃなくて、世間一般の空気をなるたけ伝えたいなと思ってます。普通のおばさんがテレビ見てブツブツ言ってるだけですもんね(笑い)」

室井さんによると、少女時代は周囲から少し浮いた存在だったという。「いじめられっ子にもなれない、はみ出しっ子」。一方的に抱いていた「強い女性」のイメージを「勘違いしていると思いますよ」と、軽めにたしなめられた。

「鬼ごっこで鬼になると、ぎゃあぎゃあ騒ぐから誰も私にタッチしない感じでした。だから、ガキ大将みたいに強い女だったわけではないはずです。組織からはみ出してはいましたけど…。私の発言とかコラムを読んでそう感じるのかも知れないですけど、それは仕事なので」

孤立を恐れない性格でもあった。

「あんまり人の気持ちを気にしないと思います。どんなに近しい人でも、その人の気持ちなんて読めっこないんですから。どう思われるかよりも、自分がどうしたいかっていうことが先に立つんだと思います」

作家の仕事にたどり着くまでモデル、女優、クラブホステスなどさまざまな職業を経験。20代は自分に合う仕事を探し続けた。

「OLとしても『いらない』って言われましたし、他の世界ではダメでしたけど。ちょっと変わってるくらい、ちょっと欠けた部分がある人の方がいいのかもしれないですよね、今の仕事って。だから『言いすぎちゃった、どうしよう』『あの人傷つけたかしら』って思っても、夜お酒飲んだら『寝るか!』みたいな(笑い)。意地悪のつもりは一切ないんだよね。見えも張らないし、人に嫉妬することもないし。だから、怒られたり、傷ついたって言われたらすぐ謝るの」

コメンテーターの仕事をしていると、周囲からはいい話も悪い話も聞こえてくる。

「『ひどく炎上してるよ』って言われたら調べてみたりするけど、しょうがないなって。いい時もあるんです、この仕事して。例えば女友達と旅行に行った時、お刺し身を1枚多く舟盛りにもらったりとか。いい時もあるんで、悪く言われるのもセットだと思うんですよね」

★昨年乳がん公表

昨年7月にステージ1の乳がんを公表した。右乳房の一部摘出手術を受け、10年間は女性ホルモンを抑える治療法を続けるという。

「頭髪が薄くなるのも嫌だし、肌もピンと張った方がいいと思ってたから、これまでずっとお金かけて女性ホルモンを処方してくれるクリニックに行ってたのに。真逆のことをしないとならないってさ、ほんとショック!」

病の話でも室井さんの表情から暗さは感じられない。手術までの決断も早かった。

「結構あたし、生きることにしがみつく女なんだなあと。そこで見た目とか関係なく、すぐに『じゃあ切って!』ってなりました。悩まないで。昔って巨乳ブームだったけど、あたしの中では今は平たい胸の方が洋服が似合うんじゃないかって思ったし。今は新型コロナウイルスでできないですけど、再建手術はするつもりですよ。やれるっていう方法があるんだったら、何でもやってみないとね」

大概のつらいことは「伊勢丹で靴を2足買うと忘れるの」。屈託のない笑いが、聞く側の緊張感をほぐす。

「10年前も膵臓(すいぞう)の腫瘍を取ったりして、50まで生きてないんじゃないかってぎゃあぎゃあ騒いでたらしいけど。頭の中身がほとんど変わらず生きてきて。思い返せばですよ、学生時代ノストラダムスの大予言で29で死ぬと思ってたんですからね(笑い)」

★19歳息子は例外

有名な政治家も一般の人も、自分以外の人間は「等価」と言い切る。室井さんの揺るがないスタンスだ。

「だから言いたいことがズケズケ言えるのかもしれないですね。どんなに偉い人でも、別にその人に食べさせてもらっているわけじゃないし」

唯一の例外が19歳の1人息子。愛情たっぷりだ。

「一番愛してますけど、一番憎いです。そういうもんでしょうね。あたしの、そういう人との距離の置き方とか、付き合い方に当てはまらないのは1人だけ」

室井さんは、実母が37歳の時に生まれた。遅くして生まれた1人っ子で、両親からは「ベタベタに甘やかされました」。家族をはじめ、今も周囲は世話焼きタイプが多いという。

「長い付き合いの友人でも、あたしの方が子どもみたいっていうか。下の方が楽なんですよね。責任感あって立派って思われるよりも、コイツほんとにダメだって思われた方が楽だし、そこは一生懸命50まで頑張ってきてうまくいったなと思います(笑い)。でも、お願いされたことはきっちりやりますよ」

頑張りすぎずに生きるコツは「自分にとって楽な居場所を見つけること」。それは“逃げ”ではないという。

「井の中のかわずじゃないけど、自分に合った井戸を見つけてくるの超うまいです。例えばマネジャーだったら、『あたし今仕事したくないんだよね。ミルクティー飲まないと1歩も動けない』って言った時に、『何でだよ』って言わないでミルクティーを飲ませてくれる人の方がいいんだよね。相性の問題じゃない? それでいいんだと思う」

苦手なことも多く「30分以上掃除機かけてると、涙が出てくる」という。自分を甘やかすことも、大事なことだという。

「人に意地悪じゃなくなるよ。自分に厳しい人って他人にも厳しかったりするじゃん。そんなに立派に見せることないんだから、正しいものが愛されるわけじゃないんだよ。使い道のあるものが愛されるわけじゃない。だからまず声を大に『できない!』って(笑い)。こう言うことの方が楽じゃない?」

理想と現実は違うが、それもまたよしとする。

「50から新しい自分に、って言ったってなれるわけないもんね。天海祐希さんのドラマの役みたいな女になりたかったけど、全然違うでしょう?」

肩の力が抜けているのに、本音で語る言葉には強い芯がある。【遠藤尚子】

▼ラジオ番組で共演する大竹まこと(70)

決して枠に収まらず、発言がはみ出ることに恐怖心がない。それで人を笑わせられる希有(けう)な存在。自然に空気をよんで周りを喜ばせる。物書きだから書物や資料を読み込んでいるんだろうけど、そこら辺のコメンテーターよりずっと頭が良くて肝が据わっている。

「明るくなくちゃ」「楽しくなくちゃ」というのが基本にあるんだろう。修羅場をくぐってきた人だから、病気も笑いに変えられる。乳がんの手術後も「乳首はついているよ~」って治療や投薬を笑い飛ばしていた。こんな時代だからラジオでも深刻な話をしなければならないこともあるけれど、いつも通りの下ネタをキープしている。恋でもしてるのかな。キレイだよね。今、生き生きとしている。

◆室井佑月(むろい・ゆづき)

1970年(昭45)2月27日、青森県生まれ。モデル、女優、レースクイーン、高級クラブホステスなどさまざまな職業を経験。97年、短編「クレセント」を発表し作家デビュー。著書に「熱帯植物園」「Piss」「ママの神様」「ぷちすとハイパー!」「息子ってヤツは」など。TBS系情報番組「ひるおび!」、同局系バラエティー「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」に出演。

◆文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ!」

平日午後のワイド番組として07年5月に放送開始。メインパーソナリティーは大竹まこと。パートナーは日替わりで、月曜を阿佐ケ谷姉妹、火曜をはるな愛、水曜を壇蜜、木曜を光浦靖子、金曜を室井佑月が担当。

(2020年5月3日本紙掲載)