コロナ禍という未曽有の事態に見舞われた2020年のエンターテインメント界で、希望の香りを漂わせ続けたシンデレラボーイがいた。シンガー・ソングライター瑛人(23)。切ない恋心を歌った「香水」は、発表から1年の時をへてSNSで“バズり”、たちまち子どもたちも口ずさむヒットソングになった。本格的に音楽を始めて3年。物語は、まだ始まったばかりだ。

★はやらせてくれた皆さん感謝

年の瀬の音楽番組に引っ張りだこだ。多忙なスケジュールの合間をぬってのインタビューとなったが「目まぐるしい毎日ですが、楽しみでいっぱいです!」と屈託なく笑った。

12月30日に、TBS系「第62回輝く!日本レコード大賞」、大みそかに「第71回NHK紅白歌合戦」に出演。昨年の年末年始は…。

「30日に友達とめちゃくちゃ遊んで…。酔っぱらって覚えてないんですけど、すってんころりん、たくさん転んで、いっぱいあざができて、31日は体が痛くて寝込んでました(笑い)。元日も少しだけ鐘をつきに行って、あとはずっと寝てました…」

一躍時の人となったのは、昨年4月に発表していた「香水」の予期せぬヒットだ。今年に入って動画投稿アプリ「TikTok」を中心に、SNSでカバーする動画が一気に広まった。

「自分では、5月くらいに気が付いて。YouTubeのミュージックビデオ(MV)の再生回数が増えたり、『あれ!? これはバズってるな』と。最初に配信ランキングの98位に入った時から、母ちゃんが毎日『瑛人、今何位だよ』って教えてくれて…。3位になった時は、夜中でしたが母ちゃんと『わーっ』って叫んで。うれしかったですね。あとは、カバーしてくださる皆さんが、みんな歌がうまいので『俺、これから歌えないじゃ~ん』って思ってました(笑い)」

<歌詞>ドールチェア~ンドガッバ~ナ~のその香水のせいだよ~

自らの切ない実体験をつづった楽曲は、キャッチーなフレーズや、3つのコードのみで進行する親しみやすいメロディーが特徴だ。

「歌詞通りのことがあって、『今の自分って何なんだろう?』という気持ちの延長のまま、歌に出てくる女の子を思い出しながら作りました。レコーディングも初めてで、友達にミックス作業なども手伝ってもらって。配信した時は、もっと突き詰められたかな…と思ったんですけど、1カ月くらいで曲を作って、そのままの気持ちでレコーディングができたことが、良かったのかなと今は思います」

瞬く間にスターダムに駆け上がる展開に「何でなんだろう? という不思議な感じもありますが、『香水』をはやらせてくれたのはSNSをやっている皆さんなので、ただただ感謝しています」。

★歌うのが好きで吐き出したい

少年時代は「鼻水たらして、女の子のパンツを見るのが楽しみなキモい子でした」。小学校に入ると、2人の兄の影響もあって野球を始めるが、その動機も「最初は嫌だったんですけど、監督がすごくおいしそうなイチゴを持っていて…。『瑛人、これ食べたら入る?』って言われて、『入る!』って始めました」。

高校の進学も、中3の時に訪れた文化祭のステージで、セクシーなダンスをしていた女子高生にひかれたことがきっかけ。「ドキドキして…。ダンス部で、着替えるところを見よう! という作戦でした(笑い)」。愉快な学生生活を送る一方で、将来については、なかなか夢を見いだせなかった。

「小学生の時は大工さん。中学卒業の時は『宝くじで3億円を当てて、一生遊んで暮らす』ってアルバムに書いてありました。高校からは…どんどん分からなくなっていきましたね」

高校卒業後1年は、フリーター生活を送った。

「毎日TSUTAYAに行って『ゴシップガール』とかを借りて見たり、遊びに行ったり…。でも、何かつまらないなと。楽しいことがしたい、自分にできることは何だろうと考えるようになって、歌うのが好きだったという動機だけで音楽学校に入りました。あとは自分が思っていることを、歌で吐き出したいという気持ちもありました」

音楽学校に入学すると、シンガー・ソングライターのルンヒャンの教えを請いながら、曲の制作に打ち込んだ。

「今も専門的な知識とかがあるわけではないんです。ギターとかも、適当に鳴らして、感覚で音をつけていく…という感じです。なので、音楽に関しては本当にこれからで、今やっと、野球でいえばスパイクのひもを結べるようになったくらいなんです」

★生でも何でも伝えにいきたい

だから、何事も楽しむ。そして懸命に取り組む。

「自分がやれることはコメントをうまく言うことではなくて、歌を歌うことと、曲を作って、その魂をちゃんとぶつけられるかということだと思うので、そこにしか集中していないです。売れる、売れないというプレッシャーは関係なく、変わらずに自分が作ったものを、魂こめて歌っていきたいです」

何より音楽に貪欲だ。のめり込めるものが、やっと見つかった。

「もっとたくさん吸収したいんです。他のアーティストさんのライブも生で見に行って、感じて、インスピレーションをもらいたいですし、自分からも発信していきたいです」

年明けの1月1日には、初のアルバム「すっからかん」を発売する。

「曲のストックもないですし、全部出し切ったということで、今は“すっからかん”です。まだまだ自分はしょぼい部分がたくさんありますし、何か余った状態ではなくて、1回すっからかんになってからじゃないと、次にもいけないと思いました」

激動の1年を経験し、さらにステップアップしていく。1月31日には初の単独ライブも開催が決まったが、「香水」のヒットはコロナ禍と重なったため、自身のファンがいる実感は、まだないという。

「瑛人のことを知ってくれていることに感謝、感謝でいっぱいなんですが、ファンの方を目の前にしたことがないので、まだ不安があるんです。SNSで温かい言葉をいただいても、本当にライブをしてお客さんが来るのかとか…。なので、コロナもありますが、もっと瑛人というものをちゃんと生でも何でも、たくさん伝えにいきたいという思いでいっぱいです!」

瑛人の音楽人生は、まだプロローグにすぎない。【大友陽平】

▼「僕はバカ」のMVに出演の飯豊まりえ(22)

撮影ではずっとニコニコされていて、周囲に緊張感を与えない、自然体で、懐かしさすら感じさせてくれるような絶妙な安心感があったり、時に突拍子ないことをしゃべられたり。予測不能で面白かったです。そのまっすぐな瑛人くんの人柄のおかげで、私も自然体のままお芝居をさせていただけたように思います。印象に残ったのは、やっぱり瑛人くんの笑顔! 爽やかな朝焼けのような、見ているとこれからなんだか良いことが起こる予感がする! みたいな。他の人にはできない、温かくて優しい、人の心を動かすことのできる笑顔です。今回はゆっくりお話できなかったので、次回お会いできた日はのんびりお話ししてみたいです! またどこかでお仕事ご一緒できますように!

◆瑛人(えいと)

1997年(平9)6月3日、横浜市生まれ。高校卒業後に1年間のフリーター生活をへて音楽学校に入学し、曲作りを開始。19年4月、「香水」を配信し、音楽活動を開始。20年4月ごろから「香水」がSNSを中心にブレークし、各配信ランキングなどで1位獲得、MVはYouTubeで再生回数が1億回を突破。ディズニー最新作「ソウルフル・ワールド」日本版にストリートミュージシャン役でカメオ出演し「愛に満ちた世界」を歌う。最近のマイブームは「ハーブティーを飲むこと」。血液型A。

◆アルバム「すっからかん」

瑛人にとって初のアルバム作品。「香水」のほか、「コカ・コーラ」のCM曲「ハピネス」など14曲を収録。リード曲「僕はバカ」MVでは、女優飯豊まりえと恋愛妄想劇を繰り広げる。21年1月1日発売。

(2020年12月27日本紙掲載)

 
 
瑛人(2020年12月4日撮影)
瑛人(2020年12月4日撮影)