NHK大河ドラマで、初の平成生まれの主役を務める。俳優吉沢亮(27)。今日14日スタートの「青天を衝け」(日曜午後8時)で、新1万円札の顔となる渋沢栄一を演じる。こじらせ系男子を演じさせたら右に出る者はいない存在感を示すが、今作ではヒーローを正攻法で演じるところが見ものだ。

★渋沢誕生日の翌日

渋沢栄一を演じることが発表されたのは19年9月だった。当然、コロナ禍などしるよしもない。渋沢がかつてパリ万博使節団としてフランスに赴き欧州の発展を目の当たりにしたことから、吉沢も別の仕事で渡仏した際、渋沢が立ち寄ったゆかりの場所を見て回った。

「今となっては形は違っているのでしょうけど、こんなところで、当時の日本からしたら信じられないような文明の違い、発展の違いを感じたのだと思いました。世界観が変わったんだろうなと肌で感じることができました」。

コロナ禍の前なので、自由に海外に赴くことができた。だが、渋沢を研究、勉強しているうちに新型コロナウイルスはまん延。クランクインは遅れ、撮影にはさまざまな制約が課せられる。そして、スタートは遅れ2月中旬に。通常なら普通にできた年末年始のPR活動もほとんどできなかった。

「もうこれは仕方ありません。放送日もずれこんで大変だなと思いましたけど、これも運命なのかと受け止めています。スタートする日が、渋沢の誕生日の翌日というのも、これも何かそういうことなのでしょう」。

渋沢は約500社の企業を育て、同時に約600の社会事業にもかかわった。日本資本主義の父と称され、ノーベル平和賞の候補にも2度選ばれている。立志伝中の人物だ。24年に刷新される新1万円札の顔でもある。吉沢もさまざまな資料を読みあさり、人物像を探ったという。

「台本や資料はもちろんですがそろばんを学んだり、剣術までもいろいろと。事前にできることはやりました。ひと言ではいえませんが、当時の尊王攘夷(じょうい)というか、当時のはやりにのめり込んではいるけど、俯瞰(ふかん)して見ているのかなと思います。命の価値観というか、腹を切れと言った方が勇ましいという雰囲気の中、自ら命を絶っても世の中のためにはならないよね、と冷静に見ている。当時では珍しかったけど、だからこそ生き延びたのだと思います。演じてみて、道徳を大事にし、優秀な人間を見極める力が必要だと思って生きていく男なのだと思っています」。

もっとも、渋沢は歴史上の有名人ではあるが、戦国時代の武将や明治維新の立役者らと比べると、ドラマの登場人物になった回数は少ない。キャラクターも浸透していない。いわばマイナーキャラだ。今回の大河ドラマで世間に認知される可能性が高い。吉沢もそのあたりを慎重に語る。

★役作り「楽しい」

「大河ドラマですからね、渋沢の印象が根付いていくのかなと考えると責任は重大だと思います。でも、僕1人で考えることではないし、監督やスタッフさんと相談しながら作っていこうと思います。それは、ある意味楽しい作業で、1人の人物像を一から作れるというのは役者冥利(みょうり)につきます」。

さらに渋沢について聞くと、次々と言葉が出てくる。

「これまでの大河ドラマで描かれた人物とは違いますよね。死ぬ瞬間のはかなさとか、ある意味、そういう派手な部分はない。そうではなく、泥くさくても、生き抜いていく強さ、生命力が渋沢の魅力だと思います。そういう部分を伝えられる大河ドラマにしたいですね」。

そして、人としての揺らぎにも言及する。「立派な人ではあるのですが、そういう部分から外れている部分や瞬間もある、それは人間くさくていいのかな。それがキャラクターというのではなく、人は揺らぎもあるという、そんな部分も大切にしたい。渋沢の実績は描くけど、そこに至る彼の揺らぎなどは、自由に演じていきたい。演じていておもしろい人でもあるので、そのおもしろさも伝えたいですね」。

吉沢によると、そんな栄一らしいエピソードが第5話に出てくるという。病気がちだった姉なか(村川絵梨)がきつねに取りつかれたとして、祈祷(きとう)師を呼んでおはらいをしてもらうシーンだ。迷信を信じない栄一は、祈祷(きとう)師の矛盾を1つ1つ突きつけ打破した。「実際の話なのですが、栄一らしいなと思いました。お坊さんをあらゆる方向から問い詰めるんですが、そのやりとりがおもしろいんです」。

一昨年の連続テレビ小説「なつぞら」ではヒロインの幼なじみの天陽役で反響を呼んだが、大河ドラマの出演は初めて。そして、平成生まれの主役も初めてになる。

「オープンセットに足を踏み入れた時、その規模のでかさにビックリしました。ぜいたくな環境ですよね。キャストもスタッフも素晴らしい方ばかりで、完璧に整えられた状態でお芝居ができる。すごく恵まれています。役者としては、1人の人物をこれだけ時間をかけて一生を描けるのは大河ドラマの醍醐味(だいごみ)だと思うし、1人の人生をていねいにお芝居できる現場はないので、役者人生にいきることがたくさんあると思います」。

共演者も実力派俳優が固める。栄一の両親を小林薫、和久井映見、栄一とともにパラレルに描かれる一橋家の徳川慶喜を草なぎ(なぎは弓ヘンに前の旧字体その下に刀)剛、慶喜側近の平岡円四郎を堤真一が演じる。

「みなさんに影響を受けています。小林さんは芝居をしていて、思った以上に軟らかさがありました。台本だと、いかついお父さんかと思っていたら、柔らかくて、栄一のお父さんはこんな人なんだと、いい意味で予想と違っていました。芝居をしていて毎回新鮮な気分になります。家族の空気はお父さんが作ってくれているのかな。草なぎさんとはまだ1シーンしかご一緒していないのですが、存在感というか、声を発すると強さがビシビシ伝わってきますね」。

吉沢といえば、誰もが認める正統派の二枚目俳優。カメレオン俳優と呼ばれる演技力は高い評価を受ける。だが、その端正すぎる顔立ちが影響していると思わせるほど、いわゆるこじらせ系男子など、癖のある役柄がうまい。

ところが今回の栄一は「感情がそのまま顔ににじみ出るし、言葉になるし、自分の思っていることを押し殺して何かをしゃべるなどはしない男。感情がそのままセリフになっている」と評する。吉沢にとっても、今までにない芝居となる。

「演じてきた中で、含みをもった人間ではないというのはある意味難しい。感情がそのまま表に出る人間なので、それを僕がどう演じて、描けるのか。最初苦労しましたけど、今はなじんできました。好きな人物ですよ、おもしろい、やるときはちゃんとやる人間なので。愛されるキャラクターになると思います」。【竹村章】

◆吉沢亮(よしざわ・りょう)

1994年(平6)2月1日、東京都生まれ。09年「アミューズ全国オーディション THE PUSH!マン」をきっかけにデビュー。11~12年の「仮面ライダーフォーゼ」シリーズの仮面ライダーメテオ役で注目を浴びる。連続テレビ小説「なつぞら」でヒロインの幼なじみを演じ反響を呼ぶ。主な出演映画は「オオカミ少女と黒王子」「銀魂」「トモダチゲーム」「リバーズ・エッジ」「キングダム」など。趣味はギター、特技は剣道2段。

◆「青天を衝け」

第60作NHK大河ドラマ。日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一の生涯を描く。主演は吉沢亮。成功の部分ばかりにスポットが当たるが、渋沢の人生は順風満帆ではなかった。田舎の農民の家に生まれ、倒幕を目指すも幕臣に。幕府が倒れた後は、新政府に仕官、33歳の時に民間人へと転身した。その後は実業家として民間改革を目指し、近代日本の礎を築いた。脚本は同局の連続テレビ小説「風のハルカ」「あさが来た」などを手掛けた大森美香氏。

◆渋沢栄一

1840年(天保11)2月13日、武蔵国榛沢郡血洗島村(埼玉県深谷市)に生まれる。一橋慶喜に仕え、67年にパリ万博使節団として渡仏。73年に第一国立銀行を開業。78年に東京商法会議所の会頭に就任。1931年11月11日、91歳で死去。

◆こじらせ男子

自分に自信を持てずに否定的な発言をすることが多く、扱いに困る男性のこと。コミュニケーションが苦手で、ネガティブ思考が強い。奥手な性格なので恋愛経験も少なく、女性と話すことも苦手で1人でいる期間が長くなる傾向が強い。

(2021年2月14日本紙掲載)