今年6月に還暦を迎えてなお、画面で欠かせない存在であり続けている俳優遠藤憲一(60)。4日スタートのフジテレビ系連続ドラマ「ラジエーションハウス2~放射線科の診断レポート~」(月曜午後9時、初回90分スペシャル)の2年半ぶりの第2弾でも再び、放射線技師長・小野寺俊夫を演じる。コロナ禍での作品作り、そしてこれからを聞くと、さらなる未来像を持っていた。

★明るくバカらしく

窪田正孝(33)演じる天才放射線技師・五十嵐唯織が主人公の連ドラの第2弾。遠藤が演じる放射線技師長・小野寺は適当に見えながら仕事はピカ一で、部下思いのリーダーだ。

「前作から2年半という長さは感じなかったんですけど、やっぱりコロナ禍でセット画面が多くなっちゃう。もうちょっと、いろいろな所で、外のロケをいっぱいできれば良かったですけど。それはそれで、鈴木雅之監督やみんなで、いろいろと脚本を工夫して作ってこられたと思います」

舞台となる甘春総合病院、そして放射線科医、放射線技師たちも、前作とは違った変化がある。「それぞれの役どころも膨らんで、人間性が醸し出されてるんじゃないですかね」。病院がリストラを始めようとする中、部下を高級人間ドックに研修に連れて行くなど、もうけを出してリストラを回避する策を講じるが、部下からは「急にお金のことばっかり言い始めた」と思われ、世知辛さを味わう役どころ。「詳しいことは言わずに、とにかくみんなを守るために進めていく人情っぽい部分を、明るくバカらしくね。今のご時世に通じるのかなと」

前作ではドラマ史上初めて放射線技師、放射線医にスポットを当てた。

「そういう専門職があるとは、それまで知らなかった。だけど自分がかかりつけの病院で、前シリーズを終えた時にすごく喜んでくれた。なかなか放射線科に光が当たることはないんですって。放射線技師っていうのは、誰が撮っても一緒じゃないし、病気を見つけ出す『読影』の仕方だとかで、それぞれの専門職、深さみたいなのがある。それが面白みであり、醍醐味(だいごみ)なのかなと思います」

その中でも、撮影現場の雰囲気は変わらなかった。窪田、広瀬アリス(26)ら部下であり、仲間である俳優たちと笑いの絶えない現場をすごした。

「窪田君は、変わらないですね。会えばふざけてるし(笑い)。アリスちゃんとずっとね。特に俺、結構バカみたいに幼稚な、ふざけ方をするんで、それを全部拾ってくれるのアリスちゃん。相手してくれるんですよ。いろんなバカげたことも大好きな子なんですよ」

★夫人が社長&マネ

“俳優遠藤憲一”は充実の50代をすごした。若い頃は主に脇役の犯人や極道役で個性的な光を放っていたが、メインステージに進み出て、より強く、そしていろいろな光を放つようになった。17年にはCM出場ランキング男性部門の1位に。だが、売れっ子になって富豪や会社役員、総理大臣を演じるようになっても、以前と変わらず泥棒や死刑囚、さらには妖精さんやお局OL。バラエティーでは赤いランドセルに黄色い帽子で“子役のエンケン君”の姿まで見せている。

「いろいろなものをやれるようになったのは楽しいですね。それは女房(事務所社長の昌子夫人)がマネジャーなんで、方向転換をしてくれた。いろいろとやるきっかけを作ってもらって役柄が増えて、いろいろなオファーが来るようになったのはありがたいですね。今も言われますよ。『これやっといた方がいい』って(笑い)。やりやすい、同じのばっかりやらないでって。基本の、いろいろなものをやりたいという思いを、上手に女房が広げてくれた」

★断酒で「20代感性」

高校を1年で中退してバイトを転々としている時に、タレント養成所の募集記事を見つけたのが演劇との出会いだ。

「基本はものを作ることが好きなのに、何を作っていいのかよく分からない時。俳優も役柄を作っていくんで、その辺の喜びがあったと思うんですよ」

個性派俳優への道を歩む転機は映画「ゴッドファーザー」のマーロン・ブランドの芝居と語る。

「息子が殺された報告を受けた時に、ほぼ何もしないで悲しさをブワーッと出した。ああ、演技っていうのは心の中が一番大事なんだなって意識し始めたきっかけ。演劇をやりだしてしばらくは、形ばっかりを考えていた。20歳ちょい前くらいですかね。DVDなんてなかった時代ですから、リバイバル上映を見て感動したんだと思います」

歩み続けて、6月に60歳となった。

「微妙に体にガタがきてるんで、上手に付き合ってくしかないのかなとは思ってます。ただ、60歳ってドッシリしたイメージだったんだけど。なってみると、軽々しいなって(笑い)」

3年半前、大好きだった酒を止めた。

「今は、全く飲まない。体の調子はいいです。感性が20代の時みたいになってきた。いろいろ見たいとか、勉強したいと思っているし、読書も猛烈にするようになった。20代の時、8ミリフィルムで映画を撮っていたんですけど、面白いものを作りたいという意識が、どんどん出てきました」

★30年前のリベンジ

人生100年時代。キャリアを積み重ねて大きな花を咲かせた60歳の今も、大きな夢がある。

「休みの日には、脚本を書いています。もう60歳なんで、バンバンとアイデアが浮かんでくるわけではない。ちょっとずつ、ちょっとずつ、アイデアを書いたりとかしている。残された時間も少ないから、必死に考えて、とにかく元気なうちに書き上げて形にする」

夢の形は連続ドラマだ。

「昭和の時代みたいなウワーッっていうときめきを。そういう展開を考えて作っていきたい。僕が主演とかじゃないです。唯一出るとしたら、お父さん役かな。娘が主人公です。俳優の鈴木浩介くんと4年前に2人で話していて始めて、4年間でなんとか1話だけ書けた。だけど、連ドラって大体10話でしょ。10話分なら40年。いないんだよ、もう世の中に(笑い)。だから、ものすごい急ピッチで、集中して書いている。勝手に1人で作っていることなんで、制約が何もないから、面白そうだと思ったらそれを進めて行く」

その夢は30年前の続きでもある。

「昔ね、自分で何話か脚本を書いて持ち込んだことあるんですよ。日本テレビで水谷豊さん主演の『刑事貴族2』っていう連続ドラマがあって、プロデューサーに言われて何話か書かせてもらった。だけど脚本家を目指してたわけじゃなく、勉強のために書いていたんでスパッと終えて、俳優の道へ。お酒をやめたくらいから、またやってみたくなってきた。オリジナルを書いてみたいと思っていてね。だからリベンジですね(笑い)」

60歳からも、より大きい花を咲かせ、大きく実らせようとしている。【小谷野俊哉】

▼「ラジエーションハウス2」の草ヶ谷大輔プロデューサー(36)

出演者たちは2年のブランクを感じさせない仲の良さです。放射線技師たちは、このシリーズから八嶋智人さんが加わって、よりパワーアップしています。本番以外は、みんな話し合っていてうるさいくらいです(笑い)。

このシリーズはバラバラになった放射線技師たちが五十嵐唯織(窪田正孝)が米国から戻ってきたことで、どうなっていくか。遠藤さんが演じる放射線技師長の小野寺俊夫は、認知症予備軍と診断されるピンチを迎えます。バラバラになった周囲の人間が、どう助けていくかを見てください。

ドラマ収録現場での、遠藤さんの存在の大きさはすごいものがあります。でも普通、60歳の大物俳優がいると現場はピリつきますよね。ある種の緊張感が有るはずなんです。でも、この現場は、遠藤さんが率先して盛り上がって、みんなが盛り上がっている。

遠藤さんがいるからの仲のいいチームが、より盛り上がる。お芝居でも本番の声がかかると誰よりも盛り上げてくれます。さしてベテランの演技の力で盛り上げて、ドラマを締めてくれます。あとは体調に気を付けて、働きすぎないでくださいということですね。全てのことに全力投球で頑張る方なので、体だけは気をつけていただきたいです。

4日から「ラジエーションハウス2」が始まります。シーズン1を見た方も、見ていない方も、コロナ禍で医療関係者に注目が集まる中、縁の下の力持ちとなって支えているヒーローが放射線科医、放射線技師です。彼らが命を救うことの一端を担っていることを知って欲しい。現場のチームワークがそのまま、エンターテインメントとして技師たちのチームワークの映像となって伝わると思います。構えずに楽しんでみていただければと思っています。

◆遠藤憲一(えんどう・けんいち)

1961年(昭36)6月28日、東京生まれ。俳優養成所をへて83年NHK「壬生の恋歌」でドラマ本格デビュー。09年テレビ東京「湯けむりスナイパー」で連ドラ初主演。主なドラマは90年日本テレビ「刑事貴族」96年NHK大河「秀吉」15年テレビ朝日「民王」17年NHK連続テレビ小説「わろてんか」テレビ東京「バイプレイヤーズ」シリーズなど。映画は88年「メロドラマ」で初出演。ほか99年「金融腐食列島 呪縛」。09年「ハゲタカ」16年「うさぎ追いし」など。182センチ。血液型O。

◆フジテレビ「ラジエーションハウス2」

放射線技師の五十嵐唯織(窪田正孝)は米国から帰国する。だが、放射線科医・甘春杏(本田翼)や技師仲間の多くは病院を去っていた。技師長の小野寺俊夫(遠藤憲一)はリストラの風に抵抗していた。

(2021年10月3日本紙掲載)