レギュラー番組は9本を数え、各方面からのオファーが絶えない。タレント井上咲楽(22)。ブレークまで時間は要したが、お笑い芸人とのバラエティー番組から、ワイドショーのコメンテーター、選挙特番への出演と、その芸域は幅広い。今春からは、テレビ朝日系の長寿番組「新婚さんいらっしゃい!」の新MCにも抜てきされ、新たなファン層も広がっている。捉えどころのない彼女の魅力を探ってみた。【竹村章】

★実直に番組に挑む

爪痕を残そうとする姿勢が印象的だ。今春、茨城県メロンの販促イベントでは、髪の毛をメロン形に模して登場。茨城県出身のお笑いコンビ、カミナリとのトークでも、栃木県出身として一歩も引かず、田舎ネタで笑いを誘う。フジテレビ系朝情報番組「めざまし8」では22歳の等身大のコメントを放つ。売れっ子に見えるが、本人は来る仕事の1つ1つに真摯(しんし)に向き合っているだけだという。「いただくお仕事をこなして。しゃべる内容などの準備に追われている感じですかね」。生真面目な性格が浮かび上がる。

4月から、51年の歴史をもつ「新婚さん-」に加わった。ともに司会を務める藤井隆(50)がこけた際の制御役も兼ねる。「藤井さんは体を使って表現することが多いので、見ている人はわかりやすくて、楽しいんだろうなと思います。毎回こけるわけでもなく、自由にやられていますね」。

番組に挑む姿勢も至って実直だ。登場する新婚さんはオーディションを通過したカップルでその倍率は高い。「出られなかったカップルもいるわけですよね。くぐり抜けたカップルも、緊張しているし、ほとんどは人生で1回きりの思い出の出演になるので、その意識を忘れないようにと言われています。カップルをいじったりしますけど、気持ち良く帰っていただくようにと思っています」。 

「昆虫食」好きを公言している。栃木県の山の中で育った。山を切り開いて住みたいという父の希望で、7歳の時に風呂を薪で沸かす家に引っ越した。4人姉妹の長女。昆虫を食べるのが好きになる環境だった。「街灯もなく夜道が暗い、怖いところに来たなという印象でした。妹たちはお産の時から見ていたので、私は班長さんという感じ。おままごとが好きだったので、おむつ替えも、ぽぽちゃん(赤ちゃん人形)がリアルに動いているなって。虫は身近でした」。

★ホリプロに応募

幼少からテレビに憧れていた。「NHKのEテレが大好きで、それに子どもたちが出ていたので、自分も出られたらいいなと」。15年に現所属事務所主催「ホリプロタレントスカウトキャラバン」に応募。漫談やものまねを披露し特別賞を受賞した。お笑いを目指したわけでもないが、太い眉毛が印象的で名前も売れた。「眉毛のおかげでテレビに出させてもらいました。校則で眉毛は剃ってはいけなく、自分で剃ろうとは思いませんでした」。インパクトはあったものの、デビューと同時のブレークとはならなかった。

そんな時に、イメチェン企画のオファーが来る。20年12月放送の日本テレビ系「今夜くらべてみました3時間SP」で眉毛をカット。「ほかに仕事もなかったので、ありがたいタイミングでした」。イメチェンは大成功。グラビアやモデルの仕事も増えていった。ネガティブな性格も、その美貌から、いい方向に回転するようになった。

井上のもう1つの強みが選挙マニアだ。仕事がなかった時期に、自民党の額賀派の分裂騒動に興味をもつ。「ヌカガハって、細胞の分裂のことかと思いました」。調べてみるとおもしろくて、そこからはまる。アイドル雑誌「月刊エンタメ」(徳間書店)に連載を持っており、日記のように書かせてもらっていた。「自分で取材した議員のインタビュー記事を小さく載せてもらっていたんです」。井上の原稿が面白いと評判になり「イノサクさんの対談FILE」へとスペースも大きく。大物も含む政治家との対談を重ねていった。

「資料を調べたりするのは苦ではありません。国会傍聴は無料ですし、深夜国会も取材に行きました。政治家の対談では、好きな本を聞くと司馬遼太郎さんと答えるのが定番。『ぐりとぐら』とか答えてくれるとおもしろいんですが」

選挙マニアは趣味だと言い切る。それでも、昨年の衆院選も今夏の参院選も、事務所にお願いし、選挙期間中は選挙取材を優先してもらった。これまでメモとして書き留めてきた選挙ノートは10冊以上。移動の交通費はもちろん自腹だ。各選挙区での演説をマークするために、分刻みのスケジュールになる。

★人間ドラマ満喫

ある時、次の選挙区に向かうために特急券を買おうとしたが長蛇の列。その特急には乗れず、次の電車では演説に間に合わないため、タクシー代に3万円を支払った。「交通費を浮かすために深夜バスも使います。早朝に東京に戻り、家でシャワーを浴びて、再び次の選挙区にいくこともあります。交通費が痛いですね。今回は15万円は超えていると思います」。

その強いモチベーションはどこからくるのか。井上は選挙取材の醍醐味(だいごみ)を「人間ドラマ」だという。そして、選挙マニア仲間と共有するのが楽しいと。仲間の1人が、「選挙をこよなく愛する芸人」がキャッチフレーズの、お笑いコンビ、ゆかいな議事録の山本期日前(29)だ。

「まぶだちですね。LINEで情報交換しています。選挙期間中は一番会ってました。それぞれ仕入れた選挙ネタを披露しあい、私たちだけで爆笑。松野明美さんが走っているのを見たよーとか。山本期日前さんのために、選挙ビラは2枚入手したりして。逆にもらうこともあって、カードゲームみたいですね」

選挙について語る井上は、水を得た魚のようだ。ツイッターなどで発信する選挙マニアの名前が次から次へと出てくる。選挙ビラだけを集める人や、情勢調査にやたら詳しい人など、SNSで広がる同ジャンルの世界は広い。選挙マニアのタレントを使えば投票率アップにつながるのではと思ったが、首を横にふる。「それは違いますね。私たちの面白さが、一般の人にはつながらないんですよ」。

とはいえ、井上の指摘は的確だ。選挙に強い人と、切羽詰まっている人では、演説の必死さが表面に出るという。演説が下手な人は、落選続きだという。「選挙でおもしろいのは、人間の本質が現れるところですかね。選挙に余裕な人の表面的な必死さと、瀬戸際な人の選挙民への接し方は全く違うんです。候補者パフォーマンスが向上するのも楽しい。街頭演説で直接話を聞くことは民主主義の貴重な機会だとも思います」。

最後に野望について聞いてみた。「タップダンスをやりたい。エッセーを、発酵食品について書きたいですね。おしゃれな雑誌で。『暮しの手帖』もいいですね。阿佐ケ谷ロフトでイベント、島の古民家でDIY、おいしいオブラートを作りたい、同人誌を作りたい…」。捉えどころのなさが彼女の魅力のようだ。

▼選挙マニア友達のお笑いコンビ、ゆかいな議事録の山本期日前(29)

現地に見に行った候補者の聴衆の人数を報告したり、翌日の各候補のスケジュールを共有しています。参院選ビラ交換会も開催されました(笑い)。現地の住人から、聞いた事のない情報を手に入れてくるのですが、ある候補のスキャンダルが出た際、「井上さんが言ってたやつだーー」ってなりました(笑い)。井上さんの選挙ガチっぷりを100%出すと、ほとんどの聞き手を置き去りにするので、メディアだと20%ぐらいに抑えていると思います(笑い)。

◆井上咲楽(いのうえ・さくら)

1999年(平11)10月2日、栃木県生まれ。4姉妹の長女。「第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン」で特別賞受賞しデビュー。レギュラー番組は「新婚さんいらっしゃい!」「めざまし8」など9本。広告は「PEACH JOHN」など計5本。特技はもんぺ作り、防犯グッズの作製など。趣味は、なんでもぬか漬けにすること、芋食べ歩き、昆虫食、国会傍聴など。身長152センチ、血液型A。

◆新婚さんいらっしゃい!

テレビ朝日系列で日曜午後0時55分放送。ABCテレビ制作。1971年(昭46)スタートの視聴者参加型トーク番組。今年4月から、司会が桂文枝、山瀬まみのコンビから藤井隆、井上咲楽に交代。