雪組新トップ彩風咲奈から相手娘役に迎えられた朝月希和には、12年培った「娘役芸」と、確固たる「芯」がある。兵庫・宝塚大劇場で始まった本拠地お披露目「CITY HUNTER-盗まれたXYZ-」「Fire Fever!」でも、ぶれない姿勢を見せている。宝塚大劇場は9月13日まで、東京宝塚劇場は10月2日~11月14日。

立ち姿も麗しい雪組新トップ娘役の朝月希和
立ち姿も麗しい雪組新トップ娘役の朝月希和

朝月にとっても「驚き」だった。「正直な気持ちを申し上げますと、ほんとに驚きが…」。近年異例、研12でトップ娘役に。研14の渚あきに次ぐキャリアを積んでの就任で、トップ彩風とは3学年差しかない。

「時間がとても早く流れ、責任感も増しました。ただ、舞台をさせていただくうえで、やるべきことは変わらない。ひとつひとつ丁寧に取り組んでいくことが大切だと思っています」

10年入団。花組で13年に新人公演初ヒロイン。雪組、再び花組を経て今の立場に。花組時代の「はいからさんが通る」(20年)では芸者吉次にふんするなど、歌、ダンスだけでなく芝居も達者。経験値は高い。ヒロインという立場にも「縛られずに、その役として生きる」とぶれもない。

演じる槇村香は勝ち気で、彩風演じる冴羽■とも渡り合う。男勝りな役だ。

「パンツスタイルでスニーカー…勝ち気な面もありますけど、女性らしい部分も。口に出さないけど、■への思いが女性らしさや不器用さを表していて。感情のスイッチが細かく、(原作が)コミックですので、切り替えを大事にしたい」

自身も「不器用の塊」だといい、役に共感もする。

「思っていることをストレートに伝えられたらいいな、と。簡単なようで難しい。不器用で自分の気持ちがうまく伝えられない部分に、私も不器用の塊なので、共感しています」

トップ彩風咲奈とともに走る雪組新トップ娘役の朝月希和
トップ彩風咲奈とともに走る雪組新トップ娘役の朝月希和

おなじみのハンマーも登場する。「ハンマーは、香の感情の高ぶり、やきもちの最上級」ととらえ、感情の振り幅も表現。稽古場から振り方を研究した。娘役としてのこだわり、核を持ち続けてきた。

「どんな小さなことでも、こだわりをもって、それを積み重ねていくからこそ、個性があると思います」

芸事だけではない。

「アクセサリー、髪形も、その場面、その役で、どう存在すべきか。トータルでひとつひとつ考えています。それが娘役としての見せ方にもつながっていくんじゃないかと思います」

男役に寄り添う「娘役芸」のみならず、個性もしっかりと磨く。彩風からは「ついてくるのではなくて、一緒に歩いて、横で走ってほしい」と言われた。

「彩風さんは進むべき道がとてもはっきりされていらっしゃって。まっすぐ進む道に私も立ち、脇目もふらずに、自分で立って歩いていけるようでありたい」

任を十二分に果たせるゆえ、彩風も高みを求める。

「娘役は、男役さんに寄り添って-と思ってしまう。自分の考え、意志をしっかりと持っているからこそ、彩風さんのお隣にいられるということを改めて感じて。芯を持っていないとダメだと再発見できました」

母と祖母がファンで、小学時代に初観劇。中学時代に進路を考え、受験を決めた。新人時代を花組で過ごし、先輩がスカートさばき、アクセサリー作りにこだわる様を見てきた。雪組時代は個性磨きを学んだ。「娘役として培ってきたことの積み重ねがありがたい」。娘役としての喜びも、経験ごとに強まった。

「踊りも歌も芝居も、まだまだ追求していかなきゃいけないのですが、男役さんと一緒に踊らせていただいているときに感じる幸福感を宝物のように思っていて、お客様と共有できたらいいな-と思います」

不屈の心も武器だ。

「根性…あきらめない心は持ち続けてきましたので、どんなことがあってもあきらめずに。『やる』『やってみる』『やりぬく』という気持ちは誰にも負けないかなと思います」

源は、確固たる芯。しっかりと足元を見て、彩風に伴走する。【村上久美子】

◆ミュージカル「CITY HUNTER」-盗まれたXYZ-(脚本・演出=斎藤吉正) 北条司氏原作の「シティーハンター」は、85年「週刊少年ジャンプ」で連載開始。累計部数は5000万部を超え、19年には新作劇場アニメ映画とフランス実写版映画が制作された。舞台化は初。新宿を舞台に「スイーパー(始末屋)」として生きる冴羽■に彩風咲奈がふんし、おなじみハンマーを手にするヒロインに朝月希和。

◆ショー・オルケスタ「Fire Fever!」(作・演出=稲葉太地) 彩風を中心とした新生雪組メンバーが、舞台上で火花を散らすように競い合う。炎のように熱くダイナミックなショー作品。

<早朝の空に残る月のように>

芸名は「きわ」という名前にあこがれ着想。希望、平和から「希和」と漢字を組み合わせた。「朝月」は、宝塚音楽学校時代、早朝の登校時に大橋から見た空に残る月がヒントになった。「その空がすごく大好きで。一晩たっても空に月が残っている…。一晩たってもお客様の心に残っていられるような存在でありたいなと」命名したという。

☆朝月希和(あさづき・きわ)1月6日、東京都生まれ。10年入団。花組に配属され、歌唱力で注目。13年「愛と革命の詩」で新人公演初ヒロイン。17年8月に雪組、19年11月に古巣の花組へ戻る。昨年1月「マスカレード・ホテル」で瀬戸かずやの相手役を務め、東上単独初ヒロイン。同11月に再び雪組へ。今年4月12日付で、雪組トップ娘役に就任。身長163センチ。愛称「ひらめ」「きわ」。

(■はけものへんに尞)