星組トップ礼真琴が、ダンス力を発揮する本拠地作「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」「JAGUAR BEAT」に臨んでいる。芝居では、超人的ステップが特長のジョージアンダンスを披露。ショーとの2本立てで暴れ回る。兵庫・宝塚大劇場は12月13日まで、東京宝塚劇場は来年1月2日~2月12日。

ダンスの技量を存分に発揮している礼真琴
ダンスの技量を存分に発揮している礼真琴

キャッチコピーは「勇気とは何か」。歌、芝居とともにダンサーとしても高いスキルを誇る礼が「勇気をもって」挑む芝居は、ジョージア国が舞台。ジャンプあり、高難易度のステップありの伝統的舞踊、ジョージアンダンスが見せ場のひとつとなる。動画で調べて稽古に臨んだが、さすがに「苦戦した」と言う。

「一見バレエのようにも思いますが、体の使い方が根本的に違う。バレエに反した動きを目指して作られた踊り。バレエはモダンもジャズも回転は右回りが多いですが、今回は左回り。ひざを使った踊り、体の角度、ポーズとポーズの間の動き。バレエではそれをいかに美しく見せるか-ですが、ジョージアンダンスは間を見せてはいけない。すべてが静止画のように、キレが大切だと学びました」

当初は、普段経験しない箇所の筋肉痛に苦しんだ。

「統率力も必要で、黒えんびなどで培った、そろえる力も発揮する場なのかな? と思って…」

芝居演出の生田大和氏が「このダンスを宝塚の男役で見せたら?」と考え、屈指のダンサー礼を主演に、小説「斜陽の国のルスダン」を舞台化。礼はジョージア国に人質として送られた他国の王子ディミトリにふんする。女王となったルスダン(舞空瞳)と結婚するも、出自から悩み、苦しみつつ彼女への愛を貫く。

「最初ディミトリという男性の生き方が、すごく苦しく思えた。愛するルスダンとの歯車さえ狂っていく。切なく、はかない彼に、男としての意思、力強さが芽生えていく過程をどう演じようかと考えました」

たどり着いたのは、明日海りおが奴隷を演じて話題になった「金色の砂漠」だった。「原作を読み、直感で思い浮かんだ」という。

「(明日海に重ね)しっくりきた。みりおさん(明日海)のはかなさ、切なさ、美しすぎて近寄れない空気とか、絶対似合うだろうなって。(展開としても)女王として国を背負うルスダンの横で、自分は陰の存在で、何ができるのかと。耐える芝居が多いのでメンタル鍛えなきゃ(笑い)」

舞空との関係性も「今回は2人が結ばれてしまうことで、世界の歯車が狂ってしまう」新しいものだ。少しでもジョージア国の風に触れようと、伝統菓子「チュルチヘラ」を皆で食べた。「なんとも近寄りがたい、食べたことのないような…。味はシュトーレンみたいで、おいしかったです」と笑った。

本拠地作では今回から、ダンスが武器の暁千星が加入。「私と一緒に、ジョージアンダンスでも、バリバリ踊ってくれて」。芝居の後はショーでもパワフルなダンスが続く。「(暁は)稽古場でも先陣切って、ダイナミックに。頼もしく、ありがたい」と話す。

ショーでは、礼が「ジャガー」にふんした通し役の設定で「ゲームの世界のような」内容。舞空演じる「クリスタルバード」に出会い、ジャガーが喜怒哀楽の感情を手にいれていく様をダンスで表現していく。

2022年の最後を締める作品。公演中止もあり「耐えて苦しんだ1年」だった。ファンや仲間、スタッフに支えられ「絶対に1人では乗り越えられなかった」と再確認した。

10月に就任丸3年を迎えた。「3年前はまさか、世界がこのような状況になるとは…」。本拠地お披露目の宝塚公演後に緊急事態宣言が出て、活動停止に。

「『できないなりに、がむしゃらに!』と気合を入れている最中に(公演が)途絶えてしまった。そのショックはものすごく大きかったと今でも思う。でも、あの頃の『どうしよう』っていう気持ちも、今なら『何回つぶされてもはい上がってやる』に。この3年でとても強くなった」

組の中核、絶対的な柱ゆえの苦悩もあった。その重圧が、さらに精神面を強化。今作でも問いかける「勇気」をもって、トップ4年目も走る。【村上久美子】

トップ4年目に入った礼真琴
トップ4年目に入った礼真琴

■退団する真風への思い

○…現5組トップ最長キャリアの宙組・真風涼帆が退団を発表。星組出身の真風への思いは「語り出したら止まりません」。礼にとって、追いかける大きな背中だった。「新人公演時代は、ゆりかさん(真風)なしでは今の私はないというぐらい、たくさん叱っていただき、導いてくださいました」。舞台袖で、動きに戸惑ったときも「こっちだよ」と声をかけてもらった。トップの先輩としても「コロナ禍を乗り越える希望、勇気のような存在」と感謝してやまない。

◆浪漫楽劇「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」(脚本・演出=生田大和) 13世紀のジョージア(旧グルジア)を舞台にした並木陽氏の小説「斜陽の国のルスダン」をミュージカル化。人質としてジョージア国へ送られたルーム・セルジュークの王子ディミトリ(礼真琴)は、王女ルスダン(舞空瞳)とひかれあう。ルスダンは、前王の遺言から女王に就き、ディミトリは政治への関与は許されずも、夫として支える。だが、亡国ホラズムの王ジャラルッディーンが現れ、2人の絆は引き裂かれる。運命に翻弄(ほんろう)されながらも、ルスダンへの愛を貫くディミトリの生きざまを描く。

◆メガファンタジー「JAGUAR BEAT-ジャガービート-」(演出=斎藤吉正) 半人半獣のジャガーを主人公にしたストーリー仕立てのショー。礼ふんするジャガーを中心に、パワフルなビートでファンタジーな世界を描く。

☆礼真琴(れい・まこと)12月2日、東京都生まれ。09年首席入団。星組配属。当初から歌、ダンス、芝居の実力に比類なく、14年全国ツアー「風と共に去りぬ」でヒロインも。19年10月、星組トップ就任。今年は本拠地作以外にも、2月に御園座で「王家に捧ぐ歌」、9月は全国ツアーで「モンテ・クリスト伯」主演。身長170センチ。愛称「まこっつあん」「こと」「こっちゃん」。