4月。新しい生活と共に新ドラマが始まっております。今クールのいわゆる月9ドラマ(月曜午後9時からフジテレビで放送)は、竹野内豊主演の「イチケイのカラス」。法廷ものには弁護士や検察官がメインの話はたくさんありますが、このドラマは刑事裁判官が主人公。民放での連続ドラマだと初めての題材だそうです。自由奔放で型破りな刑事裁判官・入間(いるま/竹野内豊)と全く冗談が通じない堅物なエリート裁判官・坂間(さかま/黒木華)を中心に物語は進んでいきます。

初回の感想を少し。まず切り口が面白い。法廷ドラマにおける裁判官といえば、弁護士や検察官が争った後、結論を出す役割。物語の中でそこは特別なことではなく、判決を下す際には話の主人公たちである弁護士や検察官の中ではすでに決着はついており、裁判官が急にひっくり返すことはそうそうとない。そして法廷では一番上の席に座り、神の声みたく結果を淡々と伝えていく。演じるのは年配の俳優さんが多く、真面目で清潔感あふれる人ばかりではなかろうかと。

そこにきて、今回の竹野内豊演じる入間。ひげ面にそこまで整っていない髪形、口調は淡々としているが、どこか被疑者に寄り添うように語りかける。そう、これまでの裁判官像を見事に覆す。この時点ですでに面白い。

共演する黒木華は若手女優の中ではダントツにうまいのではないかと思う。キャラ作りから始まり、セリフ回し、目の動きや表情の変化など、マイペースな竹野内に対し、これでもかと技術を押し出してくる。ドラマ「リーガル・ハイ」(フジテレビ系)の逆パターンなのかもしれない。芸達者の堺雅人と組む新垣結衣のように名コンビ誕生の予感である。

その他にもイチケイ(東京地裁第3支部第一刑事部)のメンバーがくせ者ぞろいで目が離せない。弁護士だった入間を裁判官に誘った小日向文世に、書記官チームの中村梅雀、新田真剣佑、桜井ユキ、水谷果穂と行き届いたキャスティングである。他にも山崎育三郎、升毅、草刈民代に1回目のゲストは勝村政信、萩原利久、松本若菜とこの時点でフジテレビの本気度が感じられる。傍聴マニア役のチョコレートプラネットはやりすぎだと思ったが(笑い)。

さて竹野内豊。数々のヒット作に出演しているが、アラフォー世代にとってはドラマ「ビーチボーイズ」(フジテレビ系)の印象が強いと思われる。平均視聴率23・7%(最高視聴率26・5%)、今回と同じく月9の枠。当時、恋愛もの中心の枠にしては珍しい男の友情話。ダブル主演の反町隆史と仲を取り持つ広末涼子の人気を決定的にしたドラマでもある。

お調子者の反町と冷静沈着な竹野内、そして初々しい広末とのやりとりが当時の若者の憧れであったと記憶している。それから毎年のようにドラマで主演し、大作映画にも定期的に出演。そしてCMで見ない日はない。ずっと人気俳優である。

長い間、一線にいるにも関わらず、多少の熱愛報道が出るぐらいで結婚もせず、その私生活は謎に包まれる。四半世紀を経て、海での冷静沈着な若者が、裁判所において自由奔放で型破りな大人として新しい相棒を連れて戻ってきた。大注目のドラマです。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。20年11月28日には最新作「渋谷シャドウ」も公開。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)