今年最後のコラム、映画業界を簡単に振り返ってみる。現時点での興行収入ランキングをみると、シン・エヴァンゲリオンはじめ、コナンに細田作品とアニメ映画がTOP3を占め、その後に「東京リベンジャーズ」「るろうに剣心 最終章 The Final」と漫画原作の映画が続く。ようやく「花束みたいな恋をした」「マスカレード・ナイト」と邦画らしい邦画が出てきたと思ったら、「ワイルド・スピード」と嵐のドキュメンタリーを挟んで、17位の「キャラクター」に至るまで、アニメやハリウッド大作、漫画原作がこれでもかと並ぶ。

例年通りだと言えばそうだが、邦画好きとしては何とも寂しい限り。ちなみに周りの映画人と呼ばれる人たちは年間でかなりの本数を見ているにもかかわらず、これらの作品をまず見ていない。不思議な業界だと改めて実感。

さて、実写1位の「東京リベンジャーズ」。昨年から続く「鬼滅の刃」「呪術廻戦」に続くアニメブームの大トリと言っていいだろうか。不良だった主人公が運命を変えるべく中学時代にタイムリープ。ヤンキー漫画の要素に加えてSFやアクションがたっぷりと合わさった内容である。

そこで実写版、よくもこんなに人気若手俳優を集めたなと思う充実ぶり(いつオファーしたのかが気になる)。北村匠海はじめ山田裕貴に杉野遥亮、さらには鈴木伸之と眞栄田郷敦に間宮祥太朗。極めつけは絶賛大河ドラマに主演中の吉沢亮。吉沢に至っては日本の歴史を動かした人物の裏で、カリスマヤンキーも演じているというなんともいえないミスマッチさ(笑い)。でも、どちらもはまり役というのはさすがの演技力。ビーバップ、クローズ、ルーキーズに今日から俺は!!と、数年に1度何かしらのヤンキー漫画原作の映画がヒットするが、本作もその流れなのだろう。

さて、そこで今回取り上げるのは主演の北村匠海(24)。誰もが認める人気俳優であるが、その雰囲気はどこか他の俳優とは一線を画している。明らかに違うのは、事務所の男性アーティスト集団EBiDANのメンバーであり、ダンスロックバンド・DISH//のリーダーを務めていること。俳優とアーティスト、ちまたではやっている? 二刀流なのである。

DISH//といえば、YouTube「THE FIRST TAKE」において、あいみょん作詞・作曲の「猫」が1億6000万回以上も再生されているので知っている人も多いのではないか。そして今年は年末の紅白歌合戦にも出場するという。

実写映画NO・1の主演に加え、SNSでの認知度、さらには紅白にもリーダーとして出場。演技と歌、どちらもやっている俳優はいるが、ここまで高いレベルで体現している人はなかなかいないのではなかろうか。

しかし、映画のインタビューや歌番組なんかで見る姿は素朴な青年のイメージなので不思議である。そこで、出演している作品の中で印象に残っているのは「君の膵臓をたべたい」のとあるシーン。終盤にヒロインの自宅を訪ねていった後、この1シーンで心をわしづかみにされた。派手な印象はないが、一瞬でまわりを魅了する何かは、アーティスト活動を通じて得た経験なのかもしれない。二刀流というより「静と動」を使い分けるハイブリッド俳優なのかもしれない。


◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。今夏には最新映画「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」が公開された。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)