放送を終えた春ドラマ。振り返ると、最終回があざやかだった作品が多く、主人公の魅力を決定的にするいいせりふがたくさんあった。これから始まる夏ドラマもすてきなせりふに出会えたらいいなという期待を込めて、いくつかメモしておきたい。

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TBSドラマ「インハンド」のPR会見を行う菜々緒
TBSドラマ「インハンド」のPR会見を行う菜々緒

◆「今日が無事に終わらなければ明日は来ない。明日が来なきゃ、あさってもない。100年後っていうのはな、そういったかけがえのない積み重ねでやってくるんだ。目の前の命を犠牲にするやつに、未来は救えない」(TBS「インハンド」)

春ドラマでいちばん刺さったせりふ。人類を救う抗ウイルス剤開発のため村を実験台にした研究者に、寄生虫学者の紐倉(山下智久)が言った言葉。「科学者は未来のために行動すべき」という大義をめぐり、ダークサイドに落ちる人と真の天才では何が違うのか、これほどシンプルで納得できる言葉に出会ったのは初めて。1話の「100年後、200年後を見ろ」はこういうことだったのかと、ややこしい天才の根底にあるまっすぐな科学者魂に息をのんだ。静かな口調に断固とした信念を宿らせた山Pの主演力。

フジテレビ系連ドラ「ストロベリーナイト・サーガ」
フジテレビ系連ドラ「ストロベリーナイト・サーガ」

◆「だから何度も頭の中であいつを殺した。テレビで殺人事件のニュースを見るたびに、自分だったらこうする、こうやってあいつを殺してみせるって、私はそんなことばかり狂ったように考えて生きてきたのよ、事件後の人生を」(フジテレビ「ストロベリーナイト・サーガ」)

部下を人質にとられた姫川警部補(二階堂ふみ)が、犯人を説得するため、自らの犯罪被害者としての過去を告白。台本10ページ、7分に及ぶ長ぜりふは原作にほぼ忠実。マイルド指向の最近のドラマ界ではかなりハードな聞き応えで、感情むき出しで演じ切った二階堂ふみの迫力は大きな話題となった。後半の「この憎しみや殺意は、実は愛情の裏返し」あたりから「私が許すから」まで、全文記憶に刻みたい力強さ。最終章ブルーマーダー編は竹内結子版では映像化されておらず、二階堂版の名場面となった。

TBSドラマ「わたし、定時で帰ります。」主演の吉高由里子
TBSドラマ「わたし、定時で帰ります。」主演の吉高由里子

◆「決まった時間内で利益を出す方が、よっぽど難しくて挑みがいがあるんじゃないかって」(TBS「わたし、定時で帰ります。」)

有能すぎる働きすぎモンスター、晃太郎(向井理)が、いろいろあってたどり着いた境地を結衣(吉高由里子)に。「残業ゼロ」の正解は何なのか、令和元年時点の結論としてはこの“初めの1歩”くらいがちょうどよく、未来志向のなるほど感があった。こういう総括のせりふは主人公から聞きたかったが、最終回は完全に晃太郎回。倒れた結衣に「分かってんのか! 1日半寝っぱなしだったんだぞ!」「もうどうなってんだって怖かったんだぞ!」の生身の言葉もキュンときた。

NHKドラマ「腐女子、うっかりゲイに告る。」の出演者たち
NHKドラマ「腐女子、うっかりゲイに告る。」の出演者たち

◆「ねえ安藤くん。前に、同性愛者がなぜこの世に生まれてくるか分からない、みたいなこと言ってたでしょ。その答え、私分かったかも。神様は、腐女子なんじゃないかな」(NHK「腐女子、うっかりゲイに告る。」)

BL(ボーイズラブ)マンガが好きな高3腐女子の三浦さん(藤野涼子)が、同性愛者であるとに悩んできたクラスメート、安藤くん(金子大地)とのお別れで送った言葉。「うっかり」から始まった2人の青春ドラマがみずみずしく、この作品としてきちんと出した答えがポップかつ独創的ですてき。安藤くんと同様、私も「あきれるほど納得」した。「やっぱり三浦さんって面倒くさいね」「僕をちゃんと見てくれて本当にありがとう」。安藤くんの笑顔とまっすぐなせりふもキラキラしていた。

フジテレビドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」
フジテレビドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」

◆「僕はあなたとの約束を守るためにあなたに会いに来ました。22年と128日かかっちゃいましたけど。それがまた少し伸びるだけです」(フジテレビ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」)

あわやストーカーなせりふを、11話かけてきちんと主人公の魅力として描けていて、ラブストーリーとしても成功していた。五十嵐窪田正孝)の天才モードと、世界的名声より幼なじみの杏ちゃん(本田翼)との約束が大事というズレっぷり。杏ちゃんは約束を覚えていなかったという記憶のファンタジーが、無理のない最終回になっていた。「必ず戻ってきてください」「はい、約束します」。新しい約束だけでまた生きていけるピュアな男ぶりも、寅さんぽくて良い。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)