夏の甲子園出場校が続々と決まる中、名門PL学園で甲子園出場経験を持つ漫画家なきぼくろ氏が26日、球児にエールを送った。異色の経歴を生かした野球漫画「バトルスタディーズ」(講談社)で人気を獲得し、単行本第2巻がこのほど発売された。球児の熱戦に今年も刺激を受けながら「勝ち負けより、後悔しないように力いっぱいやってほしい」と話す。

 中学1年生の時、甲子園への憧れを強くした。横浜の松坂大輔投手(現在ソフトバンク)がPL学園相手に延長17回を投げ抜いて勝利した準々決勝を見た。大阪出身ということもあり、PL学園に憧れ、シニアリーグで活躍後、同校野球部に入った。

 寮では先輩の付き人。下級生は自分から話し掛けてはいけない暗黙のルールがあり、返事は「はい」「いいえ」のみ。「DL学園」野球部の主人公の成長を描く「バトルスタディーズ」にもそうした実体験を織り交ぜている。「厳しくつらかったけど、それは聞いていた通り。何より入れたうれしさがあった。何回も逃げ出したくなったけど、地元の友達の寄せ書きを見てこらえました」。

 3年生で迎えた03年夏、9番右翼レギュラーで夢舞台に立った。1回戦は3打数無安打2死球、2回戦は3打数無安打1犠打でチームは敗退。ともにフル出場だが無安打に終わった。「ヘボいですねえ」と笑う。

 「プロでやるイメージがわいてこなかった」と卒業後は美術系専門学校に進みイラストレーターとして活動した。2年前の正月、漫画を書いている初夢を見た後、妻に宣言した。「めっちゃええ夢見てんけど、漫画描いてんねん。どない思う? 俺、漫画描くわ」。妻も「ええやん」と賛同した。実は漫画を読んだことはほとんどなかったが、漫画週刊誌「モーニング」の「MANGA OPEN」奨励賞とeBook Japan賞を受賞。今年1月から同誌で「バトルスタディーズ」の連載がスタートした。「応募時の履歴書でPL野球部を初めてアピールした。野球で優勝はできませんでしたが、漫画ではトップを目指します」。

 甲子園経験のある漫画家はただ1人。球児には「野球をやってる間は、どんなに貴重な時間か分からなかった。3年間1つのことに打ち込む経験をすることは絶対に野球以外でもベースになる。後悔しないよう、力いっぱい元気にやってほしい」とエールを送る。【小谷野俊哉】