映画「カメラを止めるな!」を、18年6月23日の公開初日から上映し続けてきた“聖地”東京・池袋シネマ・ロサでの上映が258日目の7日、最終日を迎え、同劇場で舞台あいさつが行われた。

最後の舞台あいさつは、サプライズづくしだった。エンドロールで主題歌「Keep Rolling」が流れるタイミングで、歌唱を担当した山本真由美が登壇して生歌を披露すると、上田慎一郎監督は、第42回日本アカデミー賞で受賞した最優秀編集賞のブロンズを、スクリーン2の177席を埋め尽くした観客に回して喜びを分かち合った。劇場の矢川亮支配人、上田監督、市橋浩治プロデューサーと、この日の最終上映で作品を180回見た観客にサプライズで感謝状が贈られた。

新人の上田監督が17年4月にオーディションで無名の俳優を選び、ワークショップを開催し、約300万円で製作した「カメ止め」は、17年11月に6回のイベント上映で終わるはずだった。それが18年6月23日に新宿K'Sシネマと池袋シネマ・ロサで封切られた後、同劇場で100日以上連続で自主的に舞台あいさつに立った曽我真臣を筆頭に、上田監督とキャスト陣が観客に直接、作品を伝え続け、SNSで拡散され、社会的なムーブメントを巻き起こした。

当初は新宿K'Sシネマと池袋シネマ・ロサで5000人動員が目標だったが、公開館数は全国375館まで増え、224万人を動員した。そのうち、258日連続で上映した同劇場1館で5万5000人を動員した。市橋プロデューサーは「ロサさんだけで目標の11倍」と目を丸くした。

「カメ止め」に出るまで、バイト生活をするなど無名だった俳優陣も、所属事務所が決まり、テレビ番組や映画、CMへの出演も増え、飛躍した。第42回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を受賞した濱津隆之は、上田監督に感謝状を授与した際のスピーチで「あなたは、世にはびこるポンコツども(無名俳優)を集め、とんでもない映画を作りました。その映画は観客をも巻き込み、一大ムーブメントとなりました。そんなポンコツたちは今、次のステージに羽ばたき始めています」と感謝した。

浅森咲希奈は、壇上で涙で声を震わせながら、18年8月3日に全国124館への拡大公開を記念して東京・TOHOシネマズ日比谷で行われた御礼舞台あいさつで「悔しいのが無名、無名と書かれたこと」と語ったことを振り返った。もう、無名じゃないです。無名役者は今日で卒業し、新たな一歩を違う映画で見せられたらなと思います」と胸を張った。

日本アカデミー賞優秀録音賞を受賞した、古茂田耕吉氏は、同賞授賞式の感慨を語った。

古茂田 自分の録音賞も、頭の隅にもなかった。うれしいより、驚きしかない。僕の子供のような年のみんなと…僕らも頑張ったんだけど大スター、すごい巨匠がいっぱいいる中、僕らも日本アカデミー協会に呼んでもらった。編集賞、話題賞…僕の録音賞も、この映画に関われたからもらえた話で、支えてくれた皆さがもらったもの。インディーズ映画の録音をしている人は、たくさんいる1人として、たまたまいただいた。機材がねぇや、1人か…という人もいじけずに、頑張ればいいことになるよというところに、つながって欲しい

その上で、古茂田氏は「うれしかったのは、最優秀を取れず、話題賞以外は作品として取れず、みんなが『悔しい』と言った。でも1年半前は、そんな土俵に立てるとも思っていなかったし、悔しいと言えるところまで、みんなステップが上がってきた。映画の先も、まだまだあるんで…若い子たちを、よろしくお願いします」と、無名の人材たちが社会的ムーブメントの中で成長したと強調した。

8日には日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で、午後9時からテレビ初放送される。また初のスピンオフドラマ「カメラを止めるな! スピンオフ ハリウッド大作戦!」(中泉裕矢監督)も、インターネットテレビ局AbemaTVで同日午後11時10分、9日午後10時に放送される。市橋プロデューサーは「明日、テレビもございますしスピンオフもある。いろいろなことが隠れているので楽しみにして欲しいです」と“聖地”での最終上映後も「カメ止め」は止まらないことを約束した。【村上幸将】