新型コロナウイルスの、第4波と言われる感染拡大が深刻さを増す中、政府は25日に東京都、大阪府、京都府、兵庫県に3度目となる緊急事態宣言を発出した。その動きを受けて、前日24日には大手シネコン各社が、緊急事態宣言期間中、4都府県の劇場を休業すると相次いで発表した。

映画業界は、20年初頭から、コロナ禍と緊急事態宣言に翻弄(ほんろう)され続けてきた。20年4月に首都圏の1都3県を皮切りに最初の緊急事態宣言が発令された際は、全国で約1カ月もの間、映画館が休業に追い込まれた。営業再開後も、大手シネコンチェーンをはじめ、映画館は客席の販売を50%に制限したり、営業時間を午後8時までにしたり、劇場内での飲食にも制限をかけ、感染拡大防止に業界を挙げて取り組んだ。

20年秋口には、徐々に客席の制限が解かれ始めた。アニメ映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」(外崎春雄監督)が公開された同10月には、劇場内で飲食をしなければ映画館は100%、客席を販売することが可能になっていた。俳優、声優が登壇する舞台あいさつも、観客がいる劇場とは別会場で行い、リモートでつなぐような形式が主体だったのが、俳優が観客の前で舞台あいさつを行う、従来の形に戻ってきた。

今年1月、首都圏に2度目の緊急事態宣言が発出されると公開延期される作品も出たが、3月21日に解除されると、俳優陣が観客の前で行う舞台あいさつでも、客席を100%販売するケースが増えた。舞台あいさつ中、俳優や監督の口から「満員の客席を久しぶりに見た」と喜び、感激する言葉も相次いだ。2度の緊急事態宣言発出で、2度の公開延期を余儀なくされたアニメ映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(庵野秀明総監督)も、3月8日の封切りから18日までの42日間で興行収入77億9000万円を記録とヒットしている。

それが、緊急事態宣言解除から1カ月で、大阪を中心とした関西圏や首都圏で、第4波とも言われる深刻な感染の拡大が進んだ。映画関係者の間でも、コロナ禍への不安の声は日に日に高まっていた。一方で、2度目の緊急事態宣言の際、それほど厳しい制限がかけられなかったこと、現在もシネコンを中心に午後8時で上映、営業を終える劇場が主流で、業界としても感染拡大予防対策を徹底しており、映画館からクラスターなどが起きた事案がないことから、3度目の緊急事態宣言発出となっても、深刻な影響はないのではないか? と見る向きがあったのも事実だ。

それが、3度目の緊急事態宣言の発出が決定的となった22日、東宝は23日に公開予定だったアニメ映画「クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園」(高橋渉監督)の公開延期を発表した。24日には都内でゲスト声優として出演した仲里依紗(31)フワちゃん(27)チョコレートプラネットと、野原しんのすけ役の声優小林由美子が登壇する公開記念舞台あいさつも予定されていたが、それも中止となった。公開前日の延期決定は、極めて異例だ。さらに23日には、宮崎駿氏が企画、息子の吾朗氏が監督を務め、29日に公開予定だった、スタジオジブリ最新作「アーヤと魔女」の公開延期も発表された。

一方で、20年5月に同7月3日、同8月7日に予定していた公開を延期していた、佐藤健主演の大ヒットシリーズ「るろうに剣心」の最新作「-最終章 The Final」(大友啓史監督)が23日、全国で公開された。過去シリーズ3作で累計興収120億円を記録している上、今作の前評判も高い。6月4日公開の「-The Beginning」と2作合わせての製作費は公称50億円。大ヒットが期待され、またヒットさせなければならない作品だけに、配給のワーナーブラザース映画が勝負をかけて公開したことは想像に難くない。結果的に、公開2日後に動員が期待できる4都府県の大手シネコン各社が劇場の休業を発表した。興行への影響は避けられないだろう。

新作を予定通り公開するか、延期するか…3度目の緊急事態宣言発出が決定的になった段階で、そのことをどう捉えるかで映画各社の判断は分かれた。4都府県への3度目の緊急事態宣言発出を受け、大手シネコン各社が劇場の休業を発表したことが1つの判断基準になるだろうが、映画業界は3度、政府の動きによって翻弄(ほんろう)された。25日以降も、政府や各自治体の対応によって、公開を延期する作品が、さらに増える可能性もあるだろう。舞台あいさつがリモート主体に戻ったり、イベント自体の中止や公開の延期もありうるだろう。その動きを注視し、行方を追いかけ、映画業界の最新の動向を随時、伝えていく。【村上幸将】