専科バウホール公演「バウ・コメディおかしな二人」(15~26日、兵庫・宝塚バウホール)で、轟悠が2枚目路線を外れ、コメディーに臨む。ニール・サイモンの傑作戯曲をもとに、ベテラン未沙のえるとの"男同士の奇妙な共同生活"を描く。脚色、演出の石田昌也氏いわく「言葉と言葉のボクシング」。離婚しかけのマジメな男(未沙)を相手に、ずぼらなバツイチ男の轟が、丁々発止のコミカルな舞台に挑戦する。

春日野八千代に続く存在に-。劇団に請われ、02年に専科へ異動した轟は、男役のダンディズムを極める専科スター。そんな轟が、妻と離婚し、部屋は散らかりっぱなし、ずぼらな性格のオスカーを演じる。

「(役柄は)おっさんです(笑い)。全員が二枚目を捨てて、取り組んでいます。ちょっと、世話物的な部分もありますね」

65年にブロードウェーで初演され映画、ドラマ化もされたニール・サイモンの戯曲が題材。オスカー(轟)のもとに、妻に逃げられたきちょうめんなフィリックス(未沙のえる)が転がり込み...。

「マヤさん(未沙)は僕、私は俺って感じです。汚く散らかしているオスカーは、私とは正反対。マヤさんもきちょうめんで、おけいこでも、ちょっとセットがずれていると気になる。『私たち細かいよね』って笑ってるんですけどね」

轟にとっては、実生活からもかけ離れた役柄だ。

「実際に(小道具として本物の)ポップコーンを使うし、なにせ散らかっています。小道具が多すぎて...。お衣装のしわを気にせず、姿勢も悪くて、髪の毛も寝癖がついていてボサボサ。こんなの初めてですね」

宝塚では、あまり描かれない男の共同生活。未沙との会話の応酬を軸に、ストレートプレーで展開する。

「宝塚って愛とロマンがほとんどですけど、今回はちょっと異なります。それを宝塚が大好きな方々に受け入れていただけるよう、お届けできるように」

決して二枚目ではない男を演じ、格好良く見せる。難易度は高い。オスカーは、フィリックスを心配し、口論が絶えない。

「男同士、無言ながらに相手を思いやる部分ってあこがれますよね。たいがいは、死ぬか生きるかの場面で、とても格好いいシチュエーション。あ、今回は違いますが(笑い)」

轟はこれまでコメディーとあまり縁がなく、純粋な喜劇では、雪組トップ時代の「再会」(99年)以来。

「1人の役者としては、やりがいがある。過去にやったことがないということは、自分の中での挑戦でもあります。コメディーが一番難しいのは、分かっています。だからこそ、やりたかった。ドタバタにはならないように、男役として、自分の中での芸の枠を広めたい。『これもできる』という確信を感じて、この先を進んでいきたい」

高く、険しい山だからこそ上る。一種のおとこ気。専科へ移ってなお、輝きを増す轟の魅力につながる。

「女性が男性役をやる世界。えんび服を着たとして、完璧な男にはならない。かといって女性ではいけない。『(宝塚としての)美』は、先輩から後輩へと引き継いでいかないと。その一環として、私は(劇団に)いるという感じです」

轟とて、最初から光り輝くダイヤモンドだったわけではない。

「田舎から出てきた、じゃがいもみたいなものです。九州(熊本)だから、さつまいもの方が近いか(笑い)。でも、音楽学校には『金剛石も磨かずば...』って歌があるんですけど、人から磨かれ、自分で磨く。それしかない。宝塚は(海外)ミュージカルも多くて、外国の方のジェスチャー、表情とか、自分で勉強する。国内ミュージカル、歌舞伎、新劇も。好奇心は失ってはいけないんですよ」

海外旅行でも、男性のしぐさに目がいく。お金の払い方、グラスの持ち方、車の乗降まで「これ使えるな」と思う。日常の積み重ねがスターを作る。好奇心。原点は小学時代にあった。

「子どものときから、ひとつを突き詰めるタイプではなく、あれもこれも...。夏は水泳、冬はマラソン、それにバレーボールとバスケット、ソフトボール、ハードルと全部できる体育部っていうのがあって、欲張りなのでそこに。その上、コーラス部、新聞部、演劇部、美術部、放送部にも入って、風紀委員も。あ、空手部にも!」

欲張りというか、よく体がもったものだ。

「小学3年か4年のとき、突然『おばあちゃんになって、死ぬときに後悔したくない』って思ったんですよね。だから、後悔しないように何でもやろうって決めたんです」

後悔せぬよう、好奇心に素直に生きてきた。今、けいこ場でも発揮される。

「まず、共演者に対して、興味を持つ。どんな人? どんなふうにくる? と。相手あってのお芝居が一番楽しい。昔、バウホールで一人芝居やったんですけど、あんなに寂しくて、苦しくて、つらくて、どん底に落ちたことはなかった」

 今回は、芝居巧者の先輩が相手。思う存分「言葉のボクシング」を楽しむ。【村上久美子】

 

◆バウ・コメディ おかしな二人 ブロードウェーの喜劇王ニール・サイモンの傑作戯曲。妻と離婚したずぼらな性格のオスカー(轟)と、妻に逃げられたといい、彼の部屋に転がり込んできたきちょうめんなフィリックス(未沙)が巻き起こす騒動を描く。65年にブロードウェーで上演され、68年には映画化、続いてドラマ化もされている。

 

☆轟悠(とどろき・ゆう)8月11日、熊本県人吉市生まれ。85年、宝塚歌劇団に入団し、「愛あれば命は永遠に」で初舞台。月組配属。88年に雪組へ移 り、97年同組トップ就任。00年「凱旋門」で、文化庁芸術祭優秀賞を、02年「風と共に去りぬ」で菊田一夫演劇賞を受賞。02年に専科に移り、03年、歌劇団理事に就任した。趣味は海外旅行、油彩画、デッサン画。168センチ。愛称「トム」「イシサン」。