2020年が幕を開けた。東京五輪・パラリンピック開幕という大きな時代の節目を迎え、いきものがかりのリーダーでソングライターの水野良樹氏(37)が、新たな時代への思いをつづった詩『これはあなたの物語だ 2020年、東京』を日刊スポーツに寄稿した。詩に込められた思いを水野氏に聞いた。(取材・構成 首藤正徳)

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──この詩で一番伝えたかったことは

水野 オリンピック開催が決まって、どうしても私たちは“1964年の夢をもう1度”と後ろをふり返りがちになります。でも一番大事なのは今を生きている人たち1人1人が大会を通じて何を感じ、どう生きていくのかを考えること。それが結果的に新しい時代だったり、文化といったものをつくっていくのだと思います。そんな思いを共有できたらいいのかなという気持ちで書きました。

──“夢も希望もすべてはきれいごとだ”という強い言葉もあります

水野 12年のロンドン・オリンピックの時に『風が吹いている』というNHKの放送テーマソングを担当させていただいて、初めてオリンピックを生で観戦しました。同じ会場には政治的に緊張関係にある国の人たちも一緒にいて、確かにきれいごとが詰まっていると感じました。でも、それを後ろ向きに考えてはいなくて、きれいごとであれ、この会場には平和が実現していて、一緒に喜んだり笑ったりしている。これが続いているということは、どうしようもない現実に向き合いながらも、きれいごとを現実に何とか落とし込もうと、努力を続けている結果なんだと思います。

──オリンピックで印象に残っていることは

水野 僕と同じ82年生まれの競泳の北島康介選手が、アテネ大会で取った金メダルは衝撃的でした。僕らの世代は神戸連続児童殺傷事件(97年)や西鉄バスジャック事件(00年)など重大な少年犯罪を起こしていて、何となく“扱いに困る”という空気を感じていました。そんな中で北島選手が実に快活にボーンと飛び出してきて“ようやく自分たちの時代がきた”とすごく勇気づけられました。一方でロンドン大会で北島選手が負けるレースを会場で観戦しました。会場を去る後ろ姿を見て、自分たちも年を重ねているんだ、人生は前に進んでいるんだと、感慨深かったですね。

──オリンピック開催でどんな時代の変化をイメージしていますか

水野 成功も失敗もたくさんあると思います。でも、すぐに答えが決まるわけではありません。僕はこの祭典がこれからの20年、30年の最初のたたき台になると考えています。オリンピックで何が変わり、何ができなかったのか。それを考えていくことで、はっきりとは見えないところで、じわじわと変わっていくのだろうと思います。

 

◆水野良樹(みずの・よしき)1982年12月17日、神奈川県出身のソングライター。99年に吉岡聖恵、山下穂尊と「いきものがかり」を結成。06年に「SAKURA」でメジャーデビュー。作詞作曲した「ありがとう」「YELL」などが大ヒット。「風が吹いている」はNHK12年ロンドン五輪・パラリンピック放送のテーマソングになった。グループは17年に活動を休止したが、18年再開した。