西島秀俊(50)が6日、都内で開催中の東京国際映画祭が国際交流基金アジアセンターと共催する「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」の一環として、カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞した経験を持つ、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督(51)とオンラインで対談を行った。

質疑応答の中で、記者から西島にカメラの前に立つことを、どのように思っているのか? と質問が出た。主演映画「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督が、10月31日に同企画の一環として同映画祭審査委員長を務めるフランスの女優イザベル・ユペールと対談した際「私は、俳優は不安な存在だと思って接している」と語ったことを引き合いにした質問で、濱口監督の演出は不安を取り除いてくれるものなのか、という質問も出た。

まず西島は、濱口監督の演出について「俳優の不安、足りないものがあったら補ってくださる。(劇中には)ベッドシーンもありますが(他の作品の)ほとんどは、いきなり入る。(濱口監督は)いきなり触れ合うこともない。手も合わせることから、リハーサルでやる。プロセスを大切にしてくださる」と語った。

その上で「常に寄り添ってくれる。(『ドライブ・マイ・カー』では)感情を出さない人間の感情を、どう出すか…計算しきれない点が、たくさんある。気持ちを体の全部に巡らせることを徹底していて、手伝ってくれる」と感謝した。そして「ダメ出しは『感情の量が足りていない。もっと集中を』ということ」とも語った。

次に、俳優としてカメラの前に立つことについては「難しい質問ですね。(演じるのは)フィクションの人物ですけど、そこに血を通わせるのは難しい。本当に難しい作業です」と、言葉を選びつつ、かみしめるように語った。

次に配信で視聴したファンから(「ドライブ・マイ・カー」のような)アート系の映画と、規模が大きい商業映画に出る違いは? と質問が出た。西島は「準備のやり方は、あまり変わっていないんです。これは僕個人ですが、実際、カメラの前でやることは全く違うことをやっていると思います。俳優さんで演技自体、全く変えないで成立する人はいると思うんですけど、僕は正直、何年もそれをやろうとしてきましたが、どうしても、うまくいかなくて」と答えた。

さらに「商業映画、テレビドラマ、深夜のテレビドラマ、アート映画…全部、全く違うことを表現しないと、どうしても、うまく成立しないんです。なので今も、うまくいっていなくて…だから、どんどん自分の中で、いろいろ分裂気味というか」と吐露。「その場にいて、その場で求められて、見ている方に喜んでもらえるものって何なのかと考え、違うタイプの演技をしようと努力をしています」と苦悩ものぞかせた。

映画は、3日に主演作「劇場版 きのう何食べた?」(中江和仁監督)が公開されたばかりで「ドライブ・マイ・カー」も公開中。テレビドラマも日本テレビ系で「真犯人フラグ」(日曜午後10時半)が放送中で10月29日までNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも出演と、50代を迎えても、その演技力と人気で出演作が途切れない西島だが、吐露する苦悩からも作品、役、演技に向き合う実直な姿勢をうかがわせた。