77歳で死去した中村吉右衛門さんは、テレビの時代劇でも大きな足跡を刻んだ。中でもフジテレビ系「鬼平犯科帳」で、お茶の間の人気者になった。

同ドラマでは強盗や放火などの悪を成敗する江戸時代の役職、火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官・長谷川平蔵役で1989年から2016年にかけ主演。89年から01年にかけ連ドラ9シリーズ、その後16年までスペシャル版13本で計150本が放送された。連ドラは常に平均視聴率15%前後をマーク、95年11月には映画「鬼平犯科帳 劇場版」として公開された。

平蔵役は、実父の8代目松本幸四郎(初代松本白鸚)さんが69年から72年にかけて、NET(現テレビ朝日)の連ドラで2シリーズにわたり演じた。71年開始の第2シリーズでは、吉右衛門さんは平蔵の息子の長谷川辰蔵を演じ、役柄ともども親子共演を果たした。

フジテレビでの連ドラ化に当たっては、90年に死去した原作者の作家池波正太郎氏から直々に40歳の時出演依頼を受けたが、8代目幸四郎さんのイメージが強かったこともあって「まだ、若い」と断った。5年後、45歳になった時に「平蔵も45歳で火盗改方長官に就任した」と満を持して出演。親子2代での当たり役にした。

悪者を取り締まる平蔵役について、吉右衛門さんは「大人」と表現していた。「悪い人の中に良い点を見つけ、良い人の中に悪い点を見つけ、良いも悪いも飲み込む理想的な指導者」と話していたという。

平成に入り、トレンディードラマが人気になる中で、吉右衛門さんはテレビ時代劇を一時は復興させた。「鬼平犯科帳」のプロデューサーは、フジテレビで“時代劇の名プロデューサー”と言われた17年に76歳で亡くなった能村庸一氏が手掛け、後に遠藤龍之介現副会長(65)が務めた。歌舞伎界のみならず、テレビ界に残した功績も計り知れないものがあった。

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◆中村吉右衛門(なかむら・きちえもん)1944年(昭19)5月22日、東京都生まれ。屋号は播磨屋。初代松本白鸚の次男として生まれ、母方の祖父初代吉右衛門の養子となる。早大文学部仏文科中退。学生時代は外交官を目指していた。48年6月に中村萬之助を名乗り初舞台。61年から10年間、東宝に在籍。その間の66年10月帝国劇場「金閣寺」で2代目吉右衛門を襲名。大星由良之助、弁慶、熊谷直実、俊寛、「梶原平三誉石切」の梶原平三、「天衣紛上野初花」の河内山宗俊など当たり役多数。ドラマ「鬼平犯科帳」でも活躍。映画は「柘榴坂の仇討」など。02年に芸術院会員、11年に人間国宝。17年文化功労者。松貫四(まつ・かんし)の筆名で創作、脚色も行う。絵画、スケッチが得意。178センチ、血液型B。

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