石原慎太郎さんは、52歳の若さで亡くなった最愛の弟、石原裕次郎さんの生涯を描いた私小説「弟」を96年に出版した。裕次郎さんの十回忌を迎える7月17日に発売された。

臨終を告げられてからも2度にわたり再び心臓を鼓動させた別れの場面やこれまで知られなかった秘話など、高度成長期が生んだヒーローの素顔を描いた。2歳下の弟を見守り続けた兄の記憶は、最期の病室も鮮明に覚えている。

裕次郎さんが肝臓がんのため、入院したのは87年5月5日。病魔に侵された裕次郎さんだったが、3度告げられた危篤をいずれもはね返し、7月17日を迎えた。治療するほどに、点滴や酸素マスクのパイプなど、体につながれるパイプの数が増えた。

「弟」によると、まき子夫人がとりすがり「裕さん、わかる、わかるわねっ」と体をゆすった。ただあえぐように息をするだけの裕次郎さんが、はっきりとうなずいた。慎太郎さんは「裕さん、もういいよ。もう死んでもいいんだよ」と繰り返したという。

「弟」は04年11月、テレビ朝日の開局45周年記念スペシャルドラマとして5夜連続で放送された。慎太郎さんを渡哲也さん、裕次郎さんを三浦友和が演じた。世帯視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は第1夜が23・6%をマークし、以後も20・8%、21・1%、25・7%、28・0%を記録するなど、5夜連続で20%以上を獲得。最終夜では、裕次郎さんの臨終場面の瞬間最高が33・1%をマークした。