第3回大島渚賞授賞式が4日、東京・丸ビルホールで行われた。日本の片隅で不法に働くベトナム人女性というテーマを、ドキュメンタリーではなく劇映画として描いた「海辺の彼女たち」で受賞の藤元明緒監督(34)はスピーチの中で、ロシアのウクライナ侵攻について言及。「映画って何が出来るんだろう…映画作家として今の時代に立ち向かう壁が、あまりに強大だというのが浮かび上がり」と涙ながらに訴えた。

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一方で「映画は、やはり無力じゃない」と映画作家として、映画をもって問いかけていく覚悟を示した。

藤元監督は、ミャンマーに在住した経験があり、日本に住むミャンマー人家族の物語を描いた長編初監督作「僕の帰る場所」を、18年に日本とミャンマーの合作で製作し、東京国際映画祭「アジアの未来」部門で2冠を獲得した。20年には、日本兵の遺骨を発掘する少数民族ゾミ族を描いた短編「白骨街道/ACT1」を同国で撮影も、21年には国軍のクーデターが発生。同作は16日から上映される。

藤元監督は受賞スピーチの冒頭で「映画を見るって、こんなに豊かなんだと実感しましたし、やっぱり作る、見るってことは平和な世の中、安全な環境、健康で成り立つと実感した1年でした」と感慨深げに語った。その上で「僕もミャンマーに住んでいて、クーデターがあり、撮っていた仲間が(国軍に)捕まって映画を撮ることが出来なくなった」と声を震わせた。そして「ウクライナのことがあり、映画って何が出来るんだろう…映画作家として今の時代に立ち向かう壁が、あまりに強大だというのが浮かび上がり…」と、ロシアのウクライナ侵攻について口にすると、目から涙があふれた。

それでも、両手で涙を拭い「(『海辺の彼女たち』を)見てくれた方に勇気をいただき、背中を押されました。映画は、やはり無力じゃないという思いで作って、伝えていかなければならない」と映画監督としての覚悟を口にした。そして「映画は抵抗する力、闇を照らす灯火であって欲しいと願っていますし、優しい世界につながる力になる映画を、仲間とこれからも届けていきたい。3、4作目も、笑って皆さんと映画館でお会いしたい」と固く誓った。