2019年(平31)末に確認された新型コロナウイルスの感染が、世界に拡大して以降、途絶えていたハリウッド大作映画の大物スターが、ついに来日した。米映画「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」(デビッド・イェーツ監督)主演の英俳優エディ・レッドメイン(40)が緊急来日し、13日に都内で来日記念パーティーを開催した。

18年の前作「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」以来、約3年4カ月ぶり5度目の来日となった、レッドメイン。冒頭のあいさつからも、いまだコロナ禍が続く中、海外でキャンペーンが実現した喜びがあふれた。

「皆さん、本当に戻ってこられて圧倒されています。東京の、このすばらしい太陽の中で、皆さんとお会いできて…。ここ数年間、本当にどこにも行けなかったという状況の中、今回の来日は、とっても特別になっています。我々はパンデミックの中で、この映画を作りました。この映画は秘密についてなんですけど…やっと皆さんと秘密が共有できるようになって、うれしく思います」

そして、米女優ジェシカ・ウィリアムズ(32)とともに日本語で「アリガトウ」を繰り返した。海外から来日した、特に欧米の俳優は日本語であいさつするなど日本のファンへのサービスは欠かさないが、ここまで情感がこもった「アリガトウ」を、あれほどたくさん口にしたケースは少なくとも記者の記憶にはない。

来日記念パーティーには、抽せんを勝ち抜いた50組100人のファンが招待された。屋外での開催で、控えめながら声出しも許可された。ファンは、魔法使いや劇中のキャラクターの衣装を着るなど思い思いのスタイルでイベントを楽しんだ。レッドメインとウィリアムズに直接、質問するコーナーもあり、イベントは沸いた。取材していて、懐かしさとともに、ようやく外画のイベントが帰ってきたことへの感慨も覚えた。

その一方で、どうしても変わってしまったと感じた部分もあった。控えめという条件で声出しは許可されたものの、ファンは多少、喜びの声を出した程度で、拍手や手を振るのがリアクションの中心だった。映画の舞台あいさつも、最初の緊急事態宣言が発出された20年4月から1カ月強、全国の映画館が休業を余儀なくされた上、営業を再開しても定員の50%以下の入場制限がかかり全席の販売再開は同9月19日だった。舞台あいさつやイベントも一般客を入れずに取材陣だけ呼び込んで配信というパターンが多く、有観客に戻っても観客には

「声出しはNG。拍手でキャストの皆さんに思いを伝えてください」

などの要請が定番となった。感染拡大防止のための「新しい生活様式」も3年目…控えめであっても、声援を送るという行動から、ファンも縁遠くなっているんだろうと感じた。

また、イベント中、レッドメインが日本語版の吹き替えを担当した声優宮野真守(38)とハグして、久々の再会を喜んだシーンがあった。「大変な中での来日を、僕らファンは喜んでいます」と感謝の言葉を述べる宮野の姿にファンも拍手したが、イベント後、関係者が記者に「ハグした場面、世の中に流れても大丈夫でしょうか?」と聞いてきた。密集、密接、密閉の「3密」を避けることが当たり前の日常になって3年。歓喜の抱擁すら、主催者はメディアを通じて伝わった先の反応を気にしてしまう…それも変わってしまった悲しい現実だろう。

記者は、2011年(平23)7月7日に英ロンドンで行われた、ハリーポッターシリーズ最終作「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」(デイビッド・イェーツ監督)のワールドプレミアを現地で取材した。トラファルガー広場で映画のイベントを開いたのは史上初で、世界中から1万4000人のファンが集まり、主演のダニエル・ラドクリフ、共演のエマ・ワトソン、ルパート・グリント、原作者のJ・K・ローリング氏に大歓声を送った。日本から駆けつけてイベント開始4日前から会場周辺で野宿し、レッドカーペット会場の最前列をゲットした日本人女性も取材した。

日本国内でも、ハリウッドスターが来日した際は、東京では六本木ヒルズアリーナにレッドカーペットを敷き、1000人規模でファンを集めてのイベントが年に何回か行われていた。例えば親日家で知られる米俳優トム・クルーズは、14年6月26日に行った米映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(ダグ・ライマン監督)のプロモーションで大阪・道頓堀川をクルージング後、483キロ離れた福岡に初登場し、その後、885キロ離れた東京へ…と計1368キロも飛行機で縦断。六本木ヒルズアリーナでは、7月3日の誕生日を前に1500人のファンから「ハッピーバースデー・ディア・トム」と大合唱され「今年最初のプレゼントだ」と喜んだ後、1時間半もファンのサインの求めに応じ、触れ合った。

今、そこまでの規模で映画のイベントを開催するのは、感染拡大防止に相当、気を使っても簡単ではないだろうし、そもそも開催すること自体も、かなり慎重な判断を要することは間違いない。それでも、レッドメインが来日し、イベントを行ったことをきっかけに、ハリウッドスターを招いたイベントを考える配給は少なからず、あるだろう。

中でも、1986年(昭61)の出世作の続編「トップガン マーヴェリック」の日米同時公開を、5月27日に控える、トム・クルーズは親日家だけに期待感がある。「トップガン マーヴェリック」は19年公開の予定が、18年に製作の都合で20年6月(日本では7月)に延期すると発表。同4月2日には、コロナ禍の影響を受けて日本では同12月25日に延期と発表したが、同7月には全米公開が21年7月2日に1年、延期されたことを受け再延期。さらに同8月に同11月19日に日米同時公開が決定も、同11月には今年5月27日に延期されるなど再三の公開延期に見舞われ、待たされすぎた感はある。

コロナ禍後、初のハリウッド大作映画スターの来日となったレッドメインのイベントで、取り戻せたもの、取り戻せなかったもの、両方を感じた。「トップガン マーヴェリック」で、今後の流れが、どこへ向かっていくか…注視したい。【村上幸将】