4月8日に放送を終え”ロス”の声も聞かれる中、22日にBS4Kで5月1日午後1時半から、総合では同4日午後2時から総集編の放送が決定したと発表されたNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」。その舞台として1月31日から放送された第14週から登場した、京都の「条映太秦映画村」の”モデル”であり撮影も行われたのが、京都市右京区の東映京都撮影所と東映太秦映画村だ。

放送中の3月12日から東映太秦映画村でスタートした「『カムカムエヴリバディ』の舞台 映画村めぐり」も7月10日まで開催と”カムカム熱”は、まだまだ続いている。そんな東映太秦映画村の関係者に、ドラマとの関わりや劇中で描かれたエピソードが実際にはどうなのか…その舞台裏を聞いた。3回目は前回に引き続き、東映京都撮影所の妹尾啓太所長が、文書での質問の中から、ドラマでも描かれた時代劇の衰退への課題について語った。さらに、夢のコラボ企画案も飛び出した。 【村上幸将】

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-取材する中で、経費がかさむなどの理由でスポンサーが離れ、テレビの地上波から時代劇がどんどん消えていく、という状況が2010年ころから急速に進行した様を見てきました。「カムカムエヴリバディ」でも、そのあたりが描かれていました。京都撮影所でお仕事されてきた身として、ドラマを見て、どう感じましたか? 今後、どのようにして時代劇を残していくべきだと考えますか?

妹尾所長 テレビの地上波から時代劇が消え、これからこの撮影所はどうやって生きていくのだろうという空気があったのは確かです。しかし、人々がドラマを必要とする限り、撮影所は必要であるという信念のもと、我々は作品を作り続けてきました。危機感がなかったといえばウソですが、悲壮感はなく、何とかなると前向きだったと思います。ジャンルとしての時代劇でくくらず「面白いソフト」というところが基本であるということを忘れてはいけないと思っています。さまざまなバリエーションのある「面白いソフト」の中で、時代が現代ではないものには現代劇では味わえない面白さがある、というふうになっていかなければならないのではないかと。現代では設定できない「シチュエーション」を設定でき、その中で「どう生きるのか」「どう生きたのか」を見る。松竹撮影所の大角正会長もおっしゃっておられましたが、時代劇の描く時代、それを実際に生きた(見てきた)人たちはいないので恐れず自由に作ることが可能な題材だと思います。

-「カムカムエヴリバディ」はNHKのドラマであり、東映のコンテンツではありませんが、京都撮影所と太秦映画村がベースになっているというのは事実です。放送は終わりましたが今後、さらなるコラボレーションの企画、プラン、希望などはありますか?

妹尾所長 質問の意図が「カムカムエヴリバディ」という番組での今後ということであれば…言われて初めて思いつきましたが、桃山剣之助や伴虚無蔵、五十嵐文四郎らが演じる時代劇を作る、みたいな企画があると面白いですね。あるいは「棗黍之丞」シリーズの作品をひとつ作るとか、でしょうか。前回の質問のところでも触れましたが、NHK大阪放送局さんとは昔から良好な関係を保っていますし、それは今後も変わりないと思っています。実は朝ドラだけではなく、他の作品でも制作協力させていただいているものが数多くあります。10年以上前になりますが、ドラマ10の枠で東映との共同制作で「フェイク」というドラマを作ったこともあります。またNHK BSあるいはNHKエンタープライズ(NEP)さんとも、さまざまな形でご一緒させていただいております。「カムカムエヴリバディ」に限らず、NHKさんとはさまざまな形で良好な関係を保つ中で、こちらからもアイデアを出して積極的にコラボしていきたいと思っています。

-映画記者として「カムカムエヴリバディ」の劇中に出てきた「サムライ・ベースボール」のような日米合作映画が、京都撮影所で新たに製作される日が来て欲しいと願っています。その日が訪れることは、あるのでしょうか?

妹尾所長 共同製作はともかく、海外からの製作協力の打診、依頼は珍しいことではありません。中国からもありましたが、今はコロナ禍でストップしているのが現状です。コロナ禍の終息後は、またそういう話も増えると思っています。その時、海外から見れば、拠点を東京ではなく京都に置く方が、むしろ地の利があるという題材も多いと思います。共同制作…要するに2つ以上の国が共同出資して製作にあたる形が増えるかどうかは予想できませんが、少なくとも日本を舞台とした海外作品が作られることは増えると思っています。「バーチャル・プロダクションで全てやります」という形が主流になると、また状況も変わるかもしれませんが。

 

折しも29日から5月19日まで、東映時代劇の看板スターだった、萬屋錦之介(中村錦之助)さんの生誕90周年を記念し、代表作「宮本武蔵」(内田吐夢監督)5部作のデジタルリマスター版が東京・丸の内TOEIで初上映される。時代劇という日本の文化を後世に残すために、必要なことは何だろうか?

妹尾所長 時代劇を作るのであれば、東京で作るよりも京都でやる方が安く、クオリティーも高く作ることが出来ます。それは、パーマネントセットやオープンセットの存在と活用、ロケ場所の豊富さと近さ、かつらや衣装の技術と在庫、時代劇装飾・装置の在庫等々の物理的な問題に加え、時代劇の経験と知識をもつスタッフの存在等々…それはうぬぼれではなく、事実としてあります。パーマネントセットとは、時代劇用に土台が作られたセットのことです。東京でセットを作る場合、その土台から作らなければならないので、セット費がより高額になります。なので、この部分、特にスタッフのところで自信をもっていられるようにする努力は欠かせません。

その上で、妹尾所長は「同時に、今までのものを守っていけばよいということではないことを強く自覚しています。ジャンルとしての時代劇を守るという発想ではなく、ソフトとして面白く観客に選ばれる時代劇作品を作ること。時代劇をほとんど見ていない世代や層が、新しいジャンルとして時代劇を意識してくれるような、そんな作品を目指してチャレンジしていきたいと思います」と抱負を語った。